70代女性「右上奥歯でかむと痛い」抜歯後人工歯根(インプラント)でかめる生活を取り戻した症例
2025.02.17
治療前
右上奥歯で噛むと痛いとお見えになられた時の状態です。右上6番(画像下から2番目)の歯をすでになくされており、右上5番から7番までつながった人工歯(ブリッジ)が入っていました。歯茎の状態から右上7番(画像一番下)に何らかの問題があつことが予想されます。
通常のレントゲンでは根の先に大きな病巣はなく歯を支える骨がまだ残っているように見え、噛むと痛い症状がどこから来ているのか判断できません。
通常のレントゲンでは歯の根の周りに骨がまだあるように見えたのですが、CTでは根の周囲の骨が溶けてなくなっていることがわかります。歯を支える骨がこれだけないと歯の存続は困難です。通常のレントゲンでは読み取れなかった歯の状態がCTにより正確にわかります。
治療中
インプラント手術の前にどのインプラントを用いるのか、インプラントが隣り合う歯や噛み合う歯と調和するのはどの位置に入れるか、またその角度などをCT画面上でシミュレーションを行い、最終的な治療計画を作成します。
インプラント手術後のCTでインプラントを入れる位置や角度などが計画通りに治療が進んでいることを確認しました。
治療後
インプラントの上にセラミックの被せ物を入れて治療が終了しました。噛むと痛い症状は消え、食生活の問題は解消しています。インプラントの手前の銀合金の詰め物は治療前のまま使用しています。
治療後のレントゲンでも問題はなくしっかり機能しています。
その他
治療から5年が経過していますが、噛むことなどの機能面だけでなくセラミックの美しさも維持できています。
治療5年後のレントゲンでも骨の状態もよく異常はみられません。
年代と性別 | 70代・女性 |
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はじめのご相談内容 | 右上奥歯(右上7番)でかむと痛いとお見えになられました。 |
診断結果 | 拝見すると右上5・6・7番をつなげたブリッジが入っていました。 見た目と通常のレントゲンでは大きな問題は見つかりませんでしたが、歯周病の検査で7番の舌側と奥側に深いポケットが見つかりました。 こうした場合に考えられるのが歯周病や歯のヒビや割れです。 この7番には以前歯周病の問題はなかったため、神経がなくもろく弱い歯ですので後者の可能性が考えられます。 精査のためCTを撮影したところ、歯の一部にヒビが入って割れており歯の周囲の骨が破壊されていることが読み取れます。 通常のレントゲンでは健康な部分と病的な部分が重なって写るため判断ができませんでしたが、病的な部分だけを切り取って表示ができるCTにより正確な診断ができました。 割れてしまった歯を戻すことは不可能です。 またこの状態を続ければさらに病巣は拡大し骨が溶けてなくなってしまします。状況から残念ですが抜歯せざるを得ないと判断しました。 |
行った治療内容 | 現状へのご理解をいただけましたので、ブリッジを切断し右上7番を抜歯し入れ歯かインプラントでかめる日常を取り戻すご提案をしました。 その両者の特徴やメリット・デメリットをご説明したところ、他の場所にインプラントをお入れになられた経験から今回もインプラントをご希望されました。 すでになくされていた右上6番と今回抜歯になる右上7番の2本のインプラントを入れる治療計画を立てご説明させていただきご了承が得られましたので、ブリッジを右上5・6番間で切断し右上7番を抜歯しました。 インプラントを入れるためには骨の回復が必須です。そのため抜歯と同時に骨の成分に近い人工的な材料を歯を抜いた穴の中に入れる造骨治療を行い骨の回復の後押しを行いました。 また右上5番のブリッジ切断面はこのまま使えるように後日研磨しました。 抜歯した傷が癒え、さらに抜歯した部分の骨の穴が回復するのを5ヶ月待ち、術前にCT撮影を行い手術する正確な位置や角度、インプラントの種類、術式をシミュレーションしました。 手術当日にはステントと呼ばれるシミュレーション通りに手術を行うための装置を作製し慎重に手術を行いました。 右上6番は事前の予想通りであったためインプラントを入れることができましたが、7番の場所は骨の回復が遅れていたためもうしばらく待つことになりました。 そこから5ヶ月後に7番にインプラントをお入れしました。またそこから4か月後にインプラントに人工歯を支える土台をネジ止めするための2次手術を行い、仮の歯を使って日常の問題がないことを確認後4か月後に正式のセラミック(セルコン)を土台に仮付けして治療が終了しました。 正式のセメントでつけない理由はインプラントと土台をネジで止めている構造のため、ネジが緩んだ場合に人工歯を外して再度ネジを締めるためです。(治療後の写真) |
このケースのおおよその治療期間 | 約15か月 |
おおよその費用 | 865,900円(造骨治療1本と仮歯を含む2本) |
現在の様子 | 右上7番抜歯により当初のかむと痛い症状はなくなりました。 骨の回復を待つ期間の右側での咀嚼の不便はありましたが、治療後は食生活や日常の問題はみられず食べるものを選ばず何でも噛めるようになりました。 治療後5年程経過していますが、治療後の快適さを維持されていらっしゃいます。 |
治療のリスク | ・外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います ・メンテナンスを怠ったり、喫煙したりすると、お口の中に大きな悪影響を及ぼし、インプラント周囲炎等にかかる可能性があります ・糖尿病、肝硬変、心臓病などの持病をお持ちの場合、インプラント治療ができない可能性があり、高血圧、貧血・不整脈などの持病をお持ちの場合、インプラント治療後に治癒不全を招く可能性があります ・噛み合わせや歯ぎしりが強い場合、セラミックが割れる可能性があります |
クリニックより | ご高齢の女性であられたことが骨の回復に期間がかかった理由だと考えていますが、インプラント治療そのものや術後の経過には他の年代の方と大差はありません。 よく年齢によるインプラント治療の可否をご質問いただきますが、ご病気や薬の服用上の制約がない方であれば年齢による制限はないとお考え下さい。 それより食べられる、よくかめる幸せがある人生が、高齢の母を持つ息子として私は大切だと考えています。 神経をなくした歯のトラブルが散見されます。神経がない歯は栄養と水分が補給されないため乾燥してもろく弱くなることと、神経を取るために歯に穴を開けるため構造上も弱くなるからです。 さらにこの症例のように最も奥の歯であったり、ブリッジの支えになっている歯に多く見られます。 神経を取って治療してお痛みがその場ではなくなったとしても将来の問題をはらんでいます。これを避けるには神経を取る必要がない時点で虫歯治療をお受けいただくことしかありません。 しかしその時点では痛みやシミなどご本人が気づける症状がないことがよくあり、受診が遅れる傾向にあります。 そのため当院では症状の出現を待つのではなく定期的に歯科検診をお受けになられることをお勧めしています。 また虫歯や歯周病にかからないことが理想ですので、定期的なメンテナンス(クリーニング)もお勧めしています。 |