インプラントと天然歯の違い

入れ歯でもある程度噛むなどの機能は果たすことができますが、その構造や使用感は天然歯と全く違っています。一方でインプラントには天然歯と似た部分と違う部分があります。似ているのは歯と同じく硬い骨の中に植わっていることです。このことが「動かない」、「噛める」を生み、丈夫なので必要以上に大きくする必要がなく異物感や発音、外見の面で天然歯と非常に似ています。構造が似ているため機能も似ているのです。

しかしインプラントは人工物であるため、違っている部分もあります。この違いを理解することでインプラントそのものをよく知ることになり、違いを許容できるのか否かで治療を受ける価値があるか否かの判断ができるのではないかと思います。

インプラントと天然歯は骨との接着が違う

健康な天然歯は強くゆすってもびくともしないため、骨とくっついて(接着)いると思っていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。実は骨と接着していないのです。歯と骨の間には歯根膜と呼ばれる厚さ0.2~0.3mm程の組織があり、その歯根膜が歯と骨にくっついています。
歯根膜はコラーゲンの繊維で出来ていて、歯と骨にそれぞれ侵入していて双方を橋渡ししています。歯は一本にご自身の体重程の力がかかる事がありますが、それにも耐えられることから分かる通り、強固に接着しています。歯根膜には弾力性があり、ご自身では気づけない程わずかにたわみます。それによりクッションの様な振る舞いをして、かむ力に耐えられるようになっています。また、外傷などで接着が破壊されても代謝が速く、再生能力があるため元に戻す治癒能力を備えています。これにより病気にならなければ一生かむ力に耐えられるようになっているのです。
またこの歯根膜の治癒能力を用いて歯並び矯正治療が可能となっています。

一方でインプラントは人工物であるため歯根膜は存在しないため直接骨と接着しています。 一方インプラントには歯根膜の様な組織はありません。インプラントは骨が治癒する過程で異物と認識されないため、表面に骨が直接接着します。両者の間に歯根膜の様な機能が無いため、全く動かず矯正治療もできません。そして天然の歯に比べると力や病気に弱い傾向にあります。しかし天然の歯と比べて弱いからと言ってインプラントが人工の歯として長年機能しない訳ではありません。日々の患者さんの努力と定期的な歯科医院での検診とメンテナンスにより、力のコントロールや感染に対処できれば、インプラントはあなたの食生活をしっかりと支えてくれることでしょう。

インプラントと天然歯は植わっている場所が違う

「骨が少なくてもインプラント治療を受ける方法はあるのか」ページでお話ししたように歯を失うと骨の厚みや高さといった骨の絶対量が減少します。簡単に言うと骨が低く薄く痩せるのです。天然の歯と同じくインプラントも骨で支えられているため丈夫でビクとも動かず硬い物でも何でも噛むことができます。この裏返しで骨の支えがないと本来のインプラントの能力を発揮することができないのです。
従ってインプラントは十分な骨が残っている場所に入れる必要があり、残った骨の量や位置によって入れられるインプラントの太さや長さ、場所が制限を受けます。そのため植わった場所によっては噛みあう歯との位置関係が常に理想的になるとは残念ながら限りません。この問題の軽減は人工の歯の形を噛みあう歯に極力合わせて作ることで一般的に対応されています。ただし人工の歯を大きく広くし過ぎてインプラントの中心からあまり外れた場所に噛む力を加えるとインプラントにテコの力が加わり寿命を短くするといわれています。このようにいつも理想的な場所に入れられるとは限らないため、後で述べる天然の歯と異なる人工歯の形、使用感、外見になることがあることをご理解いただきたいと思います。

インプラントと天然歯は根っこの部分の太さが違う

上でお話しした抜歯後の骨の痩せの中の骨の厚みが薄くなる現象により、天然の歯よりかなり細い直径のインプラントを周囲に十分な骨がある最も有利な場所に植えることがインプラントの寿命の関係から必要になってきます。このため上あごの6番目の天然の歯の平均的な直径が11mm程度なのに対して、インプラントの周囲には最低2mm以上の骨が支えに必要なこともあって直径4~5mm程のインプラントを設計するのが一般的です。残念ながら天然の歯の半分にも及びません。前歯の部分の骨は元来もっと厚みが薄く、抜歯によりさらに厚みは減少します。歯を失った状況により骨がさらに痩せている場合はこれよりもっと条件が厳しくなります。
このインプラントと天然歯の根っこの部分の太さの違いが次に述べるインプラントの上に被せる人工歯の形や大きさに関係してきます。

インプラントと天然歯は歯の大きさが違う

前に述べた骨の厚みが薄くなる現象によって天然の歯より直径が細いインプラント体が入るため、隣の歯とインプラントの間に空間が生まれます。この空間は歯を失うことで歯茎を支えていた歯と歯の間の骨も失い、歯と歯の間を埋めていた歯茎も痩せて歯茎が下がって歯茎が下がるため助長されます。
この空間が出現する理由は、隣の歯と人工歯を接しさせる必要があるため失った歯と同じ幅と広さが必要なのに、入れられるインプラントは細くなることと、骨の高さが痩せて低くなるため深い位置から長い人工歯を立ち上げる必要があり、天然歯より深い位置に植わった細いインプラントから人工の歯までの斜面がきつくならざるを得ず、歯肉から上の形が細いインプラントから噛む場所まで人工歯の形や大きさがラッパ状に広がるためです。この形が隣の歯やインプラント同士の付け根の空間を作る原因になります。
この空間の出現に伴うラッパ状の人工歯の形により、審美的な問題やその空間に物が詰まりやすくなるなどの天然の歯との違いが症例にもよりますが生じることがあります。これは構造上どうしても避けて通れない部分です。

ラッパ状の形にせずこの空間を埋めることは制作上可能ではありますが、付け根が不潔になり感染を起こし周囲の骨が溶けインプラントの寿命が短くなるため、学界でもラッパ状に仕上げることが通例になっています。インプラントは人工的なものであり若干力への抵抗力が低くなる傾向があるため、神経を取った天然の歯と同じく他の歯より噛む面積を若干狭くして負荷を少なくすることが一般的です。

要約すると、インプラントは人工物で後から変化した体の中に入れる物であり、骨や歯茎を自在に増やせないため残った骨や歯茎に合わせて治療を行うことになります。そのため噛み合う歯の位置や大きさ、その歯との距離などお口の状態に合わせたインプラントと人工歯になるため、人工の歯の位置や大きさ、形、噛み合わせに制限があり失くされた歯と同じものにはならない傾向にあります。残った骨や歯茎の状態によっては、天然の歯のように隙間がなく詰まりにくい状態まで回復することが困難な事があることをご理解いただきたいと思います。
この記述をお読みになってネガティブな感想をお持ちになられたかもしれませんが、インプラントによって失った歯と全く同じものを期待されておられる方に向けて細部を記載したものです。大半のケースではこうした問題の指摘を受けたことがなく、それどころか「噛める」「快適」などの肯定的な感想をいただくことが多い事実も書き添えておきます。

インプラントと天然歯は環境の変化への順応面で違う

歯並び修正のための矯正治療ができることからも天然歯は植わっている位置を変えることができます。矯正治療は人為的なものですが、歯は環境の変化に順応するように自然と動いていきます。押されるとその方向に自然に動き、噛み合う歯とお互いに押し合っており、その歯がなくなればなくなった歯の方向に自然に動いていきます。すなわち力のバランスが均衡した位置にまで歯は動くのです。
この動きは良くも悪くも生体の一種の環境順応作用で、環境が変われば追随し調和しようとするのです。一方でインプラントは人工物であるためこうした自然の作用が全くなく、新しい環境に追随することなく今の状態を維持しようとします。このため噛む力をしっかり負担してくれる良い面と、他の歯や口の中の変化と調和していこうとしない悪い面を兼ね備えています。
歯を失った以上両者の違いを指摘する意味はなく、インプラントの良い面を重視して他の歯の負担を減らし、定期的にチェックを行って環境変化に時折人の手で追随させて調和を図る必要があります。お互いの良さを引き出しながら助け合わせることで歯だけでなくインプラントの寿命を延長してお口全体の維持が可能になります。

インプラントと天然歯はメンテナンスが違う

インプラントは人工物だから歯磨きは不要とお考えの方がいらっしゃいますが、感染に弱く日頃の丁寧なお手入れが必須です。インプラントは歯でないため虫歯にはなりませんが、歯茎と骨の中にありますので天然の歯と同様に歯周病に罹るリスクがあります。そしてインプラントと天然の歯には上述したような違いがあります。そのためインプラントは天然の歯に比べるとより慎重にメンテナンスや定期健診が必要になり、またインプラントにはネジの緩みなどの検査も別途必要です。当医院では、インプラントを長くお使いいただくためには検診や3か月に一回のメンテナンスが必要と考えています。

インプラントは天然の歯と同じく過大な力と感染に弱く、感染の有無や後で述べるネジの緩み、こうした変化をご自身で気づく前に早期に発見してトラブルとなる前に解決するのが定期検診の目的です。
また日頃のお手入れが一番大切ですが、どうしてもやったつもり、自己流になるきらいがあり、定期的にプロの目で見て管理を継続していくことで長期に渡りインプラントを機能させて食生活を維持しようとするのがメンテナンスの目的です。
病気やトラブルを長期間放置すると最悪の場合インプラント撤去にもつながることがあるため、病気やトラブルの予兆を発見したり、手遅れになる前に治療するためには3か月という間隔でチェックする必要があるのです。
この重要性から当院では検診とメンテナンスを継続してお受けいただける方のみインプラント治療をお受けしています。

インプラントは人工物であるためインプラント本体と土台や人工歯をネジ止め構造になっています。当院では人工歯の破損やインプラント本体の感染などが起きた際に将来必要に応じてネジを緩めて人工歯を外せる方式を取っています。不測事態へのサポートなくしては安心したインプラントライフは送ることができないのです。
一方で使用状況により異なりますが歯にかかる振動によって経年的にネジが緩む可能性があり、ネジが緩んだまま噛むとネジが内部で折れてインプラントが使用できなくなるリスクがあるので要注意です。しかしネジが緩んだ際に人工歯を壊さずに外して再度ネジを絞めて元通り使い続けることができます。またネジ穴が人工歯の噛み合わせ部分に開きますので、その穴を塞いだ樹脂が外れることもあります。
形あるものの変化は致し方ない部分があり、定期検診やメンテナンス毎に検査を行いトラブルになる前に対処したいと考えていますが、その間に何か変だと感じたら噛まずにすぐにご連絡ください。

最後に

ここまでいくつかのインプラントと天然歯の違いについてお話ししてきました。 この違いをネガティブに感じるか、インプラントによる恩恵の方を重視するかは人それぞれだと思います。歯を失った場合の治療にはインプラント以外にも入れ歯やブリッジがありそれぞれにメリットとデメリットが存在します。当院では入れ歯の患者さんやブリッジの患者さんも大勢いらっしゃいます。
今のそして将来の不満や不安をどの程度解消したいのか、それぞれ異なるお口の中の状態に照らし合わせて正確な情報を元に考える時間をお持ちになられることをお勧めいたします。

インプラントは人工物であるため一生は持たないかもしれません。 しかしインプラントが無事でいてくれる間は他の歯の寿命をその分伸ばすことができます。入れ歯やブリッジのように他の歯を削らず、他の歯に負担を求めることなく、他の歯の寿命を延命できることに魅力を感じるのであればインプラントという治療を一度検討されてみてはいかがでしょうか。様々な他の治療法も含めてご相談させていただきます。