30代女性「右上奥歯の神経を取る可能性があるといわれた。左上奥歯の詰め物を入れて2週間でとれた。セカンドオピニオンを受けたい。」神経を取らずに詰め物を入れた症例
2025.08.25
治療前
前医で右上奥歯(右上7番・画面左端の歯)の神経を取る可能性があるといわれた。左上奥歯(左上7番・画面右端の歯)の詰め物を入れて2週間でとれた。セカンドオピニオンを受けたいとお見えになられた時の状態です。
お困りは上顎の歯でしたが、お口を拝見すると奥歯を中心に噛みしめや食いしばり癖による極度の摩耗が見られました。歯の摩耗によりかみ合わせが維持できなくなることと、右下6番の銀歯の首位に虫歯があることが懸念材料です。
レントゲンからは右上7番(画面左上の最も奥の歯)に深い詰め物が入っており、前医が神経の問題を懸念する理由が読み取れます。その他には上下左右の奥歯の噛む部分が平らになるほど摩耗が進んでいることがわかります。将来の不安があります。
治療中
前医で神経を取る可能性を指摘された右上7番のレントゲンです。症状があまりなく根の方には異常が見られないことから、神経近くまで進行した虫歯が過去にあったとしても除菌治療で神経を残せる可能性がまだあります。
治療後2週間で詰め物がとれた左上7番は、取れやすい形をしています。歯の整形をやり直して工夫をすれば今よりは取れにくくすることができそうです。
治療後
右上7番は除菌治療を行いました。その後左上7番と共に金合金の詰め物をお入れしました。
歯の摩耗に抵抗するために、歯とほぼ同じ硬さであり治療精度が高く丈夫な金合金をご希望され左下7番、右下6番・7番の治療を行いました。金合金の見た目は不自然ですが、それより耐久性やかみ合わせの維持を患者様が重視された結果です。
治療後のレントゲンです。異常はみられず、日々の食生活や日常生活上の問題はなく正常に機能しています。
その他
治療から2年が経過した状態です。特段の変化は見られず、除菌治療で神経を取らずに済ませた右上7番にも問題はみられません。
食いしばり・噛みしめ癖による歯の極度の摩耗に抵抗するため、歯とほぼ同じ硬さで耐久性のある金合金の詰め物に入れ替えるだけでなく、就寝時にはマウスピース(ナイトガード)をお使いですが、それでも多少の歯の摩耗が見られます。
年代と性別 | 30代・女性 |
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はじめのご相談内容 | 右上7番(右上第二大臼歯)に深い虫歯があり、現在通院中の歯科医院で神経を取る可能性があるといわれたがセカンドオピニオンを聞きたい。 また左上7番(左上第二大臼歯)に金合金のつめものを入れたが2週間でとれたとお見えになられました。 |
診断結果 | 拝見すると右上7番には仮詰め材料が入っており、前医のお話し内容からその下に深い虫歯があることが推測されます。 感染が歯の神経にまで及んでいれば神経を取らざるを得ませんが、歯に痛みなどの症状がないため条件が許せば神経を取らずに済む可能性も考えられるとご説明しました。 また左上7番は詰め物がとれた状態でした。左上7番の虫歯の大きさと場所から詰め物を支える歯の整形形態に工夫が必要なケースだと判断しました。 そして上下左右の奥歯の噛み合わせ部分に極度の摩耗が見られました。日常的な噛みしめや食いしばり、歯ぎしりなどがあることが読み取れます。 強度と摩耗に抵抗するエナメル質がほとんど摩耗してなくなっており、軟かい歯質である内部の象牙質が露出している状態です。 このままの状態が続けば軟かい象牙質は摩耗がさらに進み、噛み合わせの狂い、虫歯、歯のヒビ割れや欠けなどが起こる可能性が否定できません。摩耗に抵抗する必要があることをご説明しました。 |
行った治療内容 | 状況と治療方針のご説明後に当院での治療をご希望されましたので、詰め物が取れて食事に支障をきたしている左上7番を麻酔し歯を詰め物が外れにくい形に整形し仮の歯をお入れしました。 その後右上7番を麻酔し仮の詰め物を外したところ深い虫歯がありました。 すべての虫歯を削り取ると神経にまで穴が開くことが想定されたため、抗生物質を使った除菌治療をご提案しました。 感染が神経にまで到達していた場合は治療が間に合わず、後になって痛みが出て神経を取らなくてはならなくなるリスクがありますが、今となっては神経が助かる可能性に賭けてみる価値はあると考えました。 現状の理解と治療のご納得を得られましたので、神経を取らずに除菌治療を行い当日は仮の歯をお入れしました。 噛みしめ等の癖により軟かい象牙質が露出している現状を改善したいご希望により、治療の対象を右上7番、左上7番に加え、左下7番、右下6番・7番に金合金の詰め物を入れてお口全体の摩耗に追随しつつ、極度の摩耗に抵抗することになりました。 若い女性であることから歯と同系色であるジルコニアもご説明しましたが、治療精度が高いことと耐摩耗性に優れていることから金合金をご希望されました。 そして治療後は噛みしめ等の癖に対してマウスピース装着をご提案しました。 奥歯全体的な治療をご希望になられたため、順次歯を整形し仮の歯に置き換えていきました。 仮の歯の状態でかみ合わせなど日常的な使用上の問題がなかったため、順次歯型を取り金合金の詰め物を歯に接着して奥歯の治療が終了しました。(治療後の画像) |
このケースのおおよその治療期間 | 約4か月 |
おおよその費用 | 544,640円(除菌治療1本、仮歯を含む5本) |
現在の様子 | 治療から2年が経過していますが、右上7番の痛みなどの症状はなく歯の神経を温存できています。 また左上7番の詰め物も外れることなく正常に機能し続けています。他の治療においても現在も食生活や日常の問題はみられていません。 左下6番にプラスチックが詰まっており摩耗を起こしていますが、今回は治療の対象から外し将来的に治療をしたいとのお考えです。 現在はマウスピースをお使いになられ、定期検診とメンテナンスで維持されていらっしゃいます。 この治療から3年後に左下6番の摩耗しやすくかみ合わせ維持に不安があったプラスチックは現在同じ金合金の詰め物に入れ替わっています。 |
治療のリスク | ・神経の細菌感染は肉眼で判定できないため、治療時に神経に細菌感染が起こっている場合には、治療後に痛みが出て神経を取る治療が必要になる場合があります ・治療中に痛みを伴う場合があります ・治療後に正しい歯磨きやメンテナンスを怠ると、虫歯が再発する場合があります ・治療後は神経が過敏になっているため、痛みが生じる場合があります |
クリニックより | 統計を取っていないため正確な数字は不明ですが、除菌治療が間に合う確率は70~80%ほどでないかと考えています。 お出会いしたタイミングによっては一部には治療が手遅れで後々神経を取らざるを得ないケースもありますが、多くの歯の神経を残すことができる面を評価しています。 現在は自然な見た目を重視される傾向にあるため、セラミックやジルコニアをご希望されるケースが大半です。 しかしまたこのケースのように噛みしめ、食いしばり、歯ぎしりなどの過度の強い力を慢性的にかける方には色合いを除いて金合金が最も有効であることを長年の臨床から感じています。 |