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歯周病と糖尿病の関係

現在日本の糖尿病罹患者は1千万人を超えて世界で6番目に多く、世界的にも2030年では約5億人に達すると予想されています。今でも世界で10秒に1人が糖尿病で死亡しています。一方で日本人の歯をなくす5人に4人が歯周病です。以前は虫歯で歯をなくされる方が大半だったのですが、時代と共に変わってきています。 従来は医科と歯科に分かれた別の病気だと考えられていた歯周病と糖尿病が相互に関係がありお互いに影響し合っていることが近年の研究により分かってきました。糖尿病患者が歯を喪失するリスクは糖尿病既往のない人に比べて2倍に上る報告もあり、現在は糖尿病治療のために歯周病治療が必要で、歯周病治療のために糖尿病治療が必要な時代に入っています。

目次

歯周病とはどんな病気か

口の中には無数の細菌が生息しており、その中の一部の悪玉菌である歯周病菌に感染することで歯周病が発症します。歯の表面や歯と歯茎の隙間の溝(歯周ポケット)にプラーク(歯垢)と呼ばれる細菌の塊が付着して歯茎が炎症を起こし、歯茎から出血するようになります。さらに進行して炎症が拡大すると歯を支える骨を溶かすため、歯がぐらついたり噛むと痛い症状が出て、最後には自然に歯が抜けてくる病気が歯周病です。
成人の歯をなくす原因の80%が歯周病であることから一生自分の歯で食べていくためには無視できない病気です。さらに歯周病が引き起こす問題は口の中に留まらず、糖尿病や心臓病、脳梗塞、呼吸器・消化器系疾患など全身にまで及ぶことが近年の研究から明らかになっています。
歯周病の詳細は「歯周病」をご覧ください。

糖尿病とはどんな病気か

人は生きるエネルギーを食物から補給しています。食物にはブドウ糖、果糖、乳糖、でんぷんなど様々な糖質があって、体内で分解されてブドウ糖となってエネルギーを産生する元になります。近年こそ飽食の時代と呼ばれていますが、人類の歴史は長い飢餓時代を経ているためか生存のために人類は栄養素を身体に取り込むメカニズムは多くあります。逆に一旦身体に取り込んだ栄養素を働かなくするようなメカニズムは飢餓状態では必要なく遺伝子的に発達してこなかったようで、最も手早いエネルギー源であるブドウ糖(血糖)を下げるホルモンは膵臓から分泌されるインスリンただ一つしかありません。
糖尿病は血糖を一定範囲内にコントロールする働きのあるインスリンの分泌量の減少など働きが不十分になり、血液中を流れるブドウ糖(血糖)が増える糖質代謝異常症の一つです。慢性的に血糖値が高くなるに伴って尿の中に糖がみられるため糖尿病と呼ばれています。2020年の「令和元年国民健康・栄養調査」によると糖尿病が強く疑われる人は1196万人、可能性を否定できない人は1055万人にのぼります。合わせて2251万人、日本人成人の5~6人に1人の方に糖尿病リスクがあります。
糖尿病は人の身体の構造や機能に重要なアミノ酸や、酵素、遺伝子、脂質、炭水化物などを酸化するフリーラジカルを多量に発生させる疾患であり、様々な疾患を引き起こす原因となっていると考えられています。血糖濃度(血糖値)が高い高血糖状態が長く続くと血管が傷つき、心臓病や失明、腎不全、歯周病などの慢性合併症を起こすことがあります。糖尿病にかかると男性で約10年、女性では10年以上寿命が短くなっています。

糖尿病にかかると歯周病になりやすい理由

糖尿病で血糖値が高くなると白血球など免疫に関与する細胞の機能が落ちて病原菌と闘う力が低下します。その免疫力低下によってさまざまな感染症にかかりやすく重症化しやすいといわれています。かかりやすくなる感染症の中の一つが歯周病です。
糖尿病は血液が高血糖になる病気のため、唾液の分泌量が減少します。そのため唾液に含まれる抗菌作用の低下や白血球の機能低下により歯周病菌が増殖して歯周病が発症するサイクルをたどります。
インスリンの働きは細胞のエネルギーとなるブドウ糖を細胞に受け渡すことですが、インスリンの働きが低下すると、細胞はエネルギー源であるブドウ糖を受け取ることができません。そのため細胞のたんぱく質合成能力や活力は低下し、組織の修復に影響が出てきます。歯周病による組織破壊の修復にも悪影響を及ぼす結果になります。
また糖尿病による高血糖で血管はもろくなるため、歯茎などの末梢組織で血流不良を起こしやすくなる可能性があり、これも歯周病に不利に働くと考えられます。

歯周病が糖尿病に与える影響と血糖値が高くなる理由

歯周病と糖尿病の相互関係が近年わかってきました。歯周病菌は歯周ポケットから血管内に入り込み、白血球が歯周病菌と戦う時に発生する炎症性物質(TNFα)が血中に入って唯一の血糖値を下げる働きがあるインシュリンの働きが抑制されます。インスリンの働きが弱まると血糖コントロールが悪くなり血中が高血糖状態になるため、糖尿病の発症や悪化につながります。この負の連鎖は悪循環となってさらに病状は悪化していきます。
また中等度~重度の歯周病があると2型糖尿病を発症しやすいことが日本だけでなく米国健康栄養実態調査(NHANES)からも報告されています。重症の歯周病では血糖コントロール不良になる確率が高いことや、歯周病を治療すると炎症所見が改善することも報告されています。

このように糖尿病は歯周病のリスクとなり歯周病は糖尿病のリスクとなっており、正に悪循環が起こります。実際に両方の病気を患っている人が多いのです。 この2つの病気はどちらも生活習慣病です。生活のあり方により発症や発症後の経過が変わってきます。またどちらも一度発症してしまうと治療も簡単ではありません。発症させない日頃の注意と初期の内に治療をお受けになられることをお勧めします。

歯周病治療で血糖値が下がる理由

歯周病治療が歯茎の炎症をコントロール改善することで、全身性の炎症レベルやインスリン抵抗性、血糖コントロールを改善するため、歯周病を治療すると炎症所見の改善と共に血糖が改善します。代表的糖尿病検査のHba1cは歯周病治療で減少し、糖尿病治療薬一剤とほぼ同じ効果があります。

内臓脂肪と血糖値

脂肪細胞はホルモンなどの内分泌器官として現在は考えられています。特に内臓脂肪はインスリンという血糖値を下げる働きのあるホルモンの効きを悪くし、糖尿病だけでなく血栓症や高血圧、高脂血症などに悪影響を及ぼします。こうした病気と因果関係のある歯周病にも問題です。
女性の閉経後に減少することで有名なエストロゲンといいう女性ホルモンは減少すると食欲が増えるため、中年以降食欲が増えて食べ過ぎてしまうことがあります。さらに中年以降は運動などの活動量が減って消費するカロリーが少なくなるので問題が倍増するのです。内臓脂肪を増やさないためには、後でお話しする食や食行動、運動が大切です。

食と噛むことで血糖値を下げる

糖尿病や脳卒中、心筋梗塞、高脂血症、高血圧、肥満、歯周病などの病気は生活のありようによって引き起こされるとする考え方から、生活習慣病と呼ばれます。その病気単独では仮に致命的でなくとも、その病気の先に待っているものが致命的であったり、寝たきりなど日常生活の質を著しく低下させるものに高い確率でつながっていくために生活習慣病が問題になっています。さらにこの生活習慣病に含まれる病気にまではなっていないがその一歩手前の状態で、さらにそれが複数ある状態をメタボリックシンドロームと呼んでいます。生活習慣病の単なる予備軍ではなく、複数集まると単独の病気より何十倍もの高率で重篤な疾患を引き起こす力を持っているために今注目を集めています。

原因となる多種多様な生活習慣の中には現代人の「食」の問題があります。現代人の食の特徴は、高脂肪・酸化脂質の多さ(特に動物性脂肪の過多)、繊維質の不足、白米などの精製された穀類、高度に加工された食品、噛む力を必要としない軟食化した食品、食品添加物、単糖類摂取の増加などです。そして先進国においては飽食に代表される摂取カロリーの過多、運動不足による相対的摂取カロリー過多も問題になっています。こうした食に普段から気を付けることで糖尿病と歯周病に強い体を作ることができます。

またそれと共に食行動に注意が必要です。腹八分目を目標に、早食い・まとめ食いをしないこと、時間をかけてよく噛んで食べる、寝る前の2時間は食べない、規則的な食生活、和食がお勧め、野菜をしっかり食べる、食べる順番を考える(野菜・タンパク質・炭水化物・デザートの順番で食べる)などです。噛むという誰にでもできる簡単な方法で血糖値の上昇を抑えホルモンの変化が起きて食欲が低下することがわかっています。時間をかけてしっかり噛むことで満腹中枢が刺激を受けて食べ過ぎを防止できます。さらによく噛むことが脳へのいい刺激になって脳の活性化を起こし認知症予防に、唾液分泌が増え免疫力アップや歯と粘膜の健康維持と修復などたくさんの恩恵があります。こうした効果を得るためにも、そして噛むためにも歯周病から歯を守っていきましょう。

運動で歯周病や糖尿病と闘う

歯周病と糖尿病、どちらも生活のあり方により発症する生活習慣病であり、2つの病気が関連しているため、歯周病対策に有効なものは糖尿病対策にもなります。その一つが有酸素運動です。有酸素運動で0.73%、1週間の運動量が150分以上で0.89%、運動と食事のアドバイスを受けた場合で0.58%、血糖コントロール評価で使われるHbA1c(正常値4~6%)が低下しています。
都市部に住む私たちは意外と手軽に取り組むことができるものがあります。それは階段と歩くことです。ダイエット、エクサイズ、ウォーキングなどと肩ひじ張らず、移動する時にちょっと歩いてみる、エスカレーターやエレベーターでなくちょっとだけ階段を使ってみる、そうした日頃のちょっとした行為の積み重ねが意味を持ってきます。