歯周病と脳梗塞・心筋梗塞(心臓病)
目次
脳梗塞や心筋梗塞はどのような病気か
血管内部に付着した細菌の出す毒素や免疫細胞との闘いの結果、血管内壁に炎症が起きます。炎症などでできた傷から悪玉コレステロール(LDL)や免疫細胞などが血管壁の内側に入ってコブのように血管壁が厚くなるため血管内部が狭くなり血液の流れが悪くなると共に、動脈の柔軟性が失われてもろくなっていきます。この状態を動脈硬化と呼びます。動脈硬化が進行して、コブ状の血管の内壁に沈着していたプラークの破裂により血栓(血の塊)ができて血管が詰まり、その先に血液が届かなくなることを梗塞といいます。
脳で梗塞が起これば脳梗塞、梗塞の一歩手前では狭心症が発症し、心臓を動かす筋肉である心筋の冠動脈で梗塞が起これば心筋梗塞が発症します。梗塞によって血流を絶たれた組織は生きていくことができず、梗塞から先の組織で細胞死や障害が発生します。脳梗塞や心筋梗塞は生命の危機や生活の質の悪化に直結する病気ですが、病気の出発点は共通して血管の問題です。
心筋梗塞や狭心症は血液が足りないという意味から虚血性心臓疾患と呼ばれ、癌や脳卒中(脳梗塞を含む)と共に日本人の3大死因になっています。米国での死亡原因の第一位は心血管疾患(心臓病)で、毎日約2,400名が死亡しています。食や生活の欧米化がいわれて久しい我が国でも近年血管疾患の増加が著しく、対岸の火事と侮れない数になってきています。心筋梗塞の発症リスクが高いのは、高血圧、肥満、糖尿病、高脂血症、高尿酸血症(痛風)、ストレス、喫煙です。
脳卒中は脳の血管が血栓により詰まる脳梗塞、血管が破れて出血が起こる脳出血やくも膜下出血に分類されます。脳梗塞の最大リスクは高血圧で、高脂血症、糖尿病、心疾患もリスク要因になります。アテローム脳梗塞は心筋梗塞と同様に動脈硬化が原因です。
歯周病菌が脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす理由
脳梗塞や心筋梗塞の原因となる動脈硬化は、食生活、運動不足、ストレスなどの生活習慣により発症すると考えられてきましたが、近年になって歯周病菌などの細菌感染も別要因として指摘されています。
歯周病は歯と接した部分を中心にした歯肉が潰瘍になっている状態です。その傷口から細菌が入り込めば菌血症を起こし、血管内皮細胞に侵入して動脈硬化を起こしたり悪化させます。また歯周病菌の出す内毒素が血管内に入ることで血管に炎症を引き起こすため動脈硬化リクスが高まり、また歯周病菌の血小板を凝集させる働きで血栓ができやすくなります。前にお話ししたようにこの動脈硬化や血栓の発生は共に血管に梗塞ができる原因です。脳梗塞罹患者の歯周病原因菌の量は普通の人の1.2倍といわれています。また歯周病原因菌が血流に乗って心臓の弁膜から見つかったことが一時話題になりましたが、日本成人病(生活習慣病)学会によると、歯周病患者の心臓・脳血管疾患リスクが1.19倍になり、特に65歳以下では1.44倍となっており、「閉塞性動脈硬化症患者の閉塞部と唾液から歯周病原因菌が90%以上の高率で検出された。歯周病原因菌が口の中で血小板により取り込まれて全身へ生きた菌として運ばれて粥状硬化病変や動脈瘤の形成に関与している可能性が考えられる」と述べています。
また歯周病検査結果とウエスト腹囲、空腹時血糖、高血圧既往歴、降圧剤の使用、糖尿病、善玉HDLコレステロールの減少が関連するという研究結果も出ています。歯周病は血管の老化を促進する病気ですから、歯周病になると心臓疾患や腎臓疾患が多くなる傾向にあることと符合します。このように歯周病は口の中だけに留まらず、全身に運ばれ様々な臓器への障害を起こす可能性が懸念されている病気です。
歯周病治療と脳梗塞や心筋梗塞
口の中の不衛生と循環器疾患は関連があると以前から考えられてきました。歯周病による慢性炎症や、歯と歯肉との間に住みついた細菌が動脈硬化の発症と関連性があると考えられていたからです。近年権威ある医学雑誌「The New England Journal of Medicine」で歯周病治療によって血管の内皮機能の改善が報告され、また歯周病に罹ると心血管疾患リスクが増大するため、心血管疾患と歯周病の一方を適切に管理することができれば、もう一方の疾患リスクも軽減させられることもわかってきました。
このことを裏付けるように、歯の付け根深くの歯石を取ると循環器疾患が少なくなったり、心筋梗塞(心臓発作)が少なくなったとの研究結果があります。また脳卒中も少なくなっています。そしてこれらの傾向は歯石を取る回数が多いほど強くなっています。このように歯周病治療で歯周病を改善することは全身にとっても意義のあることなのです。
一年でも、一本でも多く歯を残して美味しく食事ができて、さらに健康にもいい、それを手に入れるために定期検診とメンテナンスで歯周病予防と治療をお勧めいたします。