30代男性「奥歯の歯茎が腫れた」重度の歯周病を改善した症例

2024.02.04

治療前

歯周病治療前正面
歯周病治療前上顎
歯周病治療前下顎
右上奥歯の歯茎が腫れたとお見えになられた時の状態です。
一見何の問題もないように見えますが、過去に多くの奥歯の治療をした痕跡が認められ、日頃の清掃不足が想像されます。

歯周病治療前レントゲン
画面右上の一番奥の歯(左上7番)の根の周囲の骨が吸収しており、重症の歯周病であることがわかります。
歯周病検査ではお困りである右上奥歯を含めて重度の歯周病になっていることがわかりました。
上顎のすべての歯と下顎の奥歯に赤い丸(出血=炎症状態)、数字が4以上(歯周ポケットが深く重度の歯周病)があります。
この状態が続けば、いずれどこかの歯を失うことが予想されます。

歯周病初期治療後の歯周病検査

歯周病3DS治療前
治療に際し日頃のケアの大切さや歯磨きの仕方、生活のありようなどのご説明と実際の歯磨き練習を実施し、並行して歯周病初期治療を行いました。
その歯周初期治療後の歯周病検査結果です。
当初から比べると赤丸や数字の減少が見られますが、まだまだ改善余地が残っています。
そこで3DS(歯周病菌の除菌治療)を行うことになりました。

歯周病3DS治療後
歯周病の初期治療で改善しなかった箇所を3DS(除菌治療)で改善しました。
まだ上下左右奥歯に4mm以上の歯周ポケットが残っていますが、
赤丸の出血が見られないため炎症は小康状態にあると判断し、
この後は定期歯科健診とメンテナンスで維持に努めました。

6年後

歯周病治療6年後F
歯周病治療6年後U
歯周病治療6年後L
歯周病治療6年後XP
歯周病治療3DS前
右上4・6番、左上5・6・7番に4mm以上の深い歯周ポケットがありました。
歯周病治療3DS後
歯周病治療と3DS(除菌治療)を行い歯周ポケットは改善しました。
しかしこの後右上6番の歯が割れたため残念ながら抜歯となり、インプラントを入れることになりました。
左上7番歯周ポケット
その1年後に長らく歯周病治療で延命をしていた左上7番に突如歯茎の腫れと痛みが出てきました。
今までの経緯と歯周ポケットが5mmあったため、精査のためCTを取って確認することにしました。

左上7番CT

左上7番抜歯前CT
歯茎の腫れと痛みが出た左上7番のCT画像では骨が歯周病でなくなり、
歯はほぼ歯茎だけで支えられている状態でした。
また歯の根の付け根部分の骨がなくなっていることがわかります。
付け根部分は日々の清掃管理ができないため残念ながら抜歯せざるを得ません。

12年後の定期歯科健診

歯周病治療12年後F
歯周病治療12年後U
歯周病治療12年後L
歯周病治療12年後XP
12年後の歯周病検査
歯が割れた右上6番、重度の歯周病を克服できなかった左上7番の2本が助けられず、抜歯後インプラントに置き換わっています。
現在は歯周病は良好にコントロールできており、この状態を維持するために定期歯科健診とメンテナンスを継続中です。これからも見守っていきたいと考えています。

 

年齢と性別 30代・男性
ご相談内容 数日前から右上奥歯の歯茎が腫れた。以前にも何度か腫れたことがあるとお見えになられました。
カウンセリング・診断結果 拝見すると失った歯はないものの、上顎の歯全体と下顎の奥歯に30代とは思えない程度の重度の歯周病がありました。歯と歯茎の境目にある歯周ポケットからの正常値が1-2mmで出血がないのに対して4mm以上の歯が32本中24本(75%)もあり、歯茎からの出血も22本(69%)とかなり重症の歯周病でした。(治療前歯周病検査表)

30代と年齢がお若いので全身的な病気を疑いましたが、ご本人からは何もないとのお返事でした。レントゲン写真からは骨の吸収(歯周病による骨の減少)はあまり見られないため今が治療の絶好の機会であることもご説明しました。
お話を伺っているとそれまであまり歯に関心を払っておられなかったご様子で、ご自身が歯周病にかかっておられたことをご存知ではありませんでした。このまま放置すれば早晩歯を失い入れ歯を入れることになるため、早急に徹底的な歯周病治療と日々のお口の中のケアを開始する必要があるとご説明しました。

行ったご提案・治療内容 歯周病の治療期間はその方にもよりますが、一般的には程度が軽い場合は1~2か月ほど、中程度でも2~3か月程度の場合が多いのですが、重症の場合は長期化することが予想されることをご説明しました。またその間には院内の治療だけでなく、ご自宅でのケアが欠かせないことやより良くしたいモチベーションを維持されることが大切だとお話ししました。

初日には痛みや腫れへの対処として抗生物質と消炎鎮痛剤を処方しました。症状の軽減を確認後、原因となった不十分な日々のお口の中の清掃を改善する必要があったため、ご本人に合った歯ブラシの選択や当て方などの清掃の方法を実際にプラークがついている場所を染め出してご説明し実際に鏡を見ながら歯磨きをしていただきました。
またお口全体の歯石除去などの歯周病初期治療を行いました。その後の歯周病検査では歯茎からの出血が劇的に減少し歯周ポケットの深さも若干減少傾向にありました。
まだ改善余地のある場所について歯周ポケット内の歯周病治療を行い、再度治療効果を確認するための歯周病検査を行いました。出血本数が22本から12本(38%)に半減少するなど初診時からはかなり改善してきましたが、まだ歯周ポケットが4mm以上深い場所が21本(66%)残っています。(歯周病初期治療後の歯周病検査)

そのため3DSと呼ばれる抗生物質を就寝前にご自身で歯周ポケット内に入れさらにその上からマウスピースをはめて翌朝マウスピースを外してお口を清掃する治療を4週間行っていただきました。その結果、出血箇所は1本もなく(0%)4mm以上の歯周ポケットが15本(47%)となり歯茎が以前より締まってきました。まだ歯周病と決別した状態ではありませんが、活発に活動している状態から落ち着いてきたためこの時点で経過観察することにしました。(3DS後の歯周病検査)

定期的な歯科検診とメンテナンス(クリーニング)を行いながら経過観察を続けました。その間4mm以上の深い歯周ポケットは減少傾向にありました。
一時期は右上と左下の親知らずを除いて正常値にまで戻りましたが、初診から6年後に上の奥歯5本に再度4mm以上の歯周ポケットが出現しました。(6年後の歯周病検査)
そのため通常の歯周病治療に加えて再度3DSを行うなど維持管理に努めました。(6年後の歯周病検査)

その後右上第一大臼歯(右上6番)が割れてお痛みが出て来院され、抜歯を余儀なくされました。この歯は神経がなくもろい歯に硬い銀歯が入っていたため噛んだ拍子で残った歯が割れたためでした。
失った歯の代わりにブリッジ、入れ歯、インプラントの選択肢と特徴や利点・欠点をご説明したところインプラントをご希望になったため実施いたしました。

その1年後に今度は左上第二大臼歯(左上7番)に突如歯茎の腫れと痛みを伴う5mmの歯周ポケットが出現しました。確認のためCTを撮影したところ歯の根の付け根部分の骨がなくなっており日々の清掃管理ができない場所であることから残念ながら抜歯せざるを得なくなりました。(左上7番CT)
その歯にもインプラントをご希望であったため治療を行いました。なくされた右上6番と左上7番は経過観察中にも時折問題が出ては消退することを繰り返していた歯でした。

治療期間 1回目約5か月、2回目約6か月、3回目約12か月(インプラント治療含む)、4回目約8か月(インプラント治療含む)、5回目約3か月
治療回数
おおよその費用 歯周病治療は保険の一部負担金+3DS治療34,340円×2本+インプラント2本993,430円(骨造り、仮歯を含む)
術後の経過・現在の様子 この治療後は日々のご自宅での清掃と当院での定期健診とメンテナンスで歯周病の維持に努めました。
この治療を最後にその後6年間は出血や深い歯周ポケットは出現しておらず、歯も失っておらず歯周病はいい状態にコントロールできています。(12年後定期検診と歯周病検査)
食生活や日常の問題はみられていません。今後はこの問題がなくいい状態を定期健診とメンテナンスで維持していくつもりです。
治療のリスクについて ・治療が終わった後も、十分なセルフケアが必要です
・正しいブラッシングやメンテナンスを行わなければ歯石の付着や歯周病の再発が起こることがあります
・歯周病は生活のあり方により発症する生活習慣病のため、生活や体調の変化により治療成果や再発に個人差があります
クリニックより 始めてお目にかかった時から12年が経ちました。その間残念ながら歯を2本失ってしましましたが、当初拝見した重症の歯周病は影を潜め正常値を維持されています。この結果は患者様の日々の努力と歯に関する関心度合の変化によるものだと考えています。手前味噌になりますが当院の歯科衛生士の奮闘にも拍手を送りたいと思います。
今の現状はご本人の過去の行動や習慣の結果です。その気づきと思考や行動の変化だけが今の現状を変えられることを改めてこの方から教えていただきました。