歯が痛い原因と治療法
歯の痛みは三叉神経という敏感な神経が出す痛みのため、鬼も泣くと言われるほどつらいものです。その痛みの原因は虫歯とは限らず下記の様な原因で起こり、歯が原因でないものもあります。ご自分の口の中と照らし合わせてみてください。その痛みの原因と治療法についてお話ししていきたいと思います。
歯の痛みの原因と治療法
目次
歯質(象牙質・セメント質)の痛みの原因
歯は表層のエナメル質と内層の象牙質、象牙質の内側の神経(歯髄)、歯の根の表面のセメント質で構成されています。エナメル質には知覚がないため痛みませんが、象牙質には象牙細管という極細の管があって知覚があります。この象牙質が虫歯や摩耗、歯の欠けなどで口の中に露出する、または歯周病などで歯茎が下がり口の中にセメント質が露出すると冷たいものや熱いもの、酸食品、歯ブラシの接触などで痛みを感じることがあります。程度が軽ければ痛みではなく「しみる」と表現され、ひどい場合には息をするだけで痛みやしみを訴える場合もあります。この状態が亢進した知覚過敏症とはこうした刺激に神経(歯髄)が過敏に反応する状態をいいます。
歯質(象牙質・セメント質)の痛みの治療法
対処法としては、象牙質の露出による痛みは人工的な材料で象牙質を覆って刺激を遮断する方法、軽度のしみであれば象牙質表面をコーティングする方法、歯ブラシをしっかりと当ててしみる部分の再石灰化を促進する、知覚過敏用の歯磨き粉を使用する、などがあります。
セメント質の露出によるしみや痛みは対応が比較的困難で、治療法は多種多様になります。刺激を遮断していた歯茎が下がってなくなり、刺激が遮断できなくなったことが原因だからです。それと同時に後でお話しする露出した原因を特定し、同じことが他の歯も含めて起きないようにすることが重要です。
虫歯で歯が痛む時の原因
初期の虫歯はほとんど症状がなく気が付かないことが多いのですが、ある程度進んだ虫歯では虫歯からの刺激を神経が感じることに加えて、虫歯で歯に穴が開いて象牙質が露出するため、先に述べた歯質の痛みが発生して冷たいものがしみる、歯ブラシが触れると痛い、物がつまると痛い症状がでてきます。刺激が加わらないと痛みがでないため、痛みに波があります。
虫歯の治療法
初期の虫歯の治療は虫歯を除去した部分を人工的な材料で埋めたり被せることで、外部からの刺激を遮断し痛みは解消できます。一方で歯の内部に虫歯が進行した場合は細菌に感染した神経を取り除き、消毒した後に人工的な歯を被せるケースが大半になります。さらに虫歯が進行してあごの骨の中にまで感染が広範囲に拡大したり、虫歯にかかっていない歯質の量が極端に少ない場合には歯を抜くことをお勧めせざるを得ないこともあります。このように治療内容は虫歯の進行程度によって変わってきます。
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神経(歯髄)の痛みの原因
進行した虫歯や、歯が欠ける・折れるなどで歯の内部の神経(歯髄)にまで虫歯(細菌感染)が進行すると、先にお話しした虫歯の症状だけでなく温度変化、甘いもの、噛むなどの時に痛み、さらに何もしていなくても歯が強烈に痛いなどの症状が出てくるようになります。
また痛む歯がはっきりとわかる場合と、どの歯が痛いかわからなく感じる場合があり、痛みを感じないなど痛みの波がありますが、上記の刺激を受けた後数十分間ズキズキと強烈な痛みを感じる場合と進行して持続的に痛む場合があります。
さらに進行して神経が感染により完全に死んでしまうと、今までが嘘のように痛みがなくなる時期が来ます。実は治ったのではなく痛みを感じる神経細胞が死滅しただけで、感染はさらに進行していきます。
自然治癒は絶対に起こりませんのでご注意ください。この時期の適切な治療を逸してしまうと、根尖性歯周炎に進行します。根尖性歯周炎でも歯が痛みます。
虫歯などの細菌感染が神経を通り過ぎて歯の根の先やあごの骨の中にまで感染が拡大し、神経が死んだため温度変化などは感じなくなりますが、歯を噛んだりたたくと痛い、歯の奥が痛い、歯茎が腫れる、歯茎を押すと痛い、時に激烈な痛みなどの症状が出てきます。細菌感染によって歯茎や歯の根の周囲にある歯根膜、歯槽骨と呼ばれる歯を支えているあごの骨の中に炎症が起こる過程で痛みが出ます。被害は骨にまで及び重症になると歯を失う場合もあります。
神経(歯髄)が痛む時の治療法
感染した神経を取り除く治療を行うと、痛みそのものは消えます。しかしまだ安心は禁物です。まだ細菌が歯の内部に多数残っているため歯の内部を消毒する治療を複数回行います。細菌が死滅しないと再発を免れないからです。期間がかかりますが、症状の有無に関わらず大切な治療です。感染の状況によっては化膿を止めるため抗生物質の服用も必要になってきます。
その後内部の除菌が確認できれば神経の入っていた管を薬剤で封鎖して感染経路を断ち、その上から人工の被せ物などで歯を覆うことで再度噛むことができるようになります。
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歯肉(歯茎)・歯周病の痛みの原因
歯と歯茎の境目から細菌が入り歯周病が発症します。初期の歯周病は痛みが出ない、または出たとしてもしみたり異和感程度ですが、進行すると細菌感染による炎症が拡大するため噛むと違和感や鈍い痛み、噛み切れない、歯茎が腫れる、歯茎から出血するなどの症状が出て、さらに進行すると激しい痛み、噛むと激痛がする、膿が出る、熱が出るなどの症状になります。
歯肉(歯茎)・歯周病の痛みの治療法
歯周病治療は歯と歯周ポケット(歯と歯茎の境目)の洗浄、消毒、清掃が基本になり、状況に応じて抗生物質の服用が必要になる場合があります。歯周病の進行度合いによって治療内容は変わりますが、重症の場合は抜歯しか治療法がないこともあります。
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歯のまわり(歯周組織)・親知らずの痛みの原因
歯肉(歯茎)の痛みと重複しますが、特に多いのが親知らずの周りの歯茎が痛む智歯周囲炎です。親知らずは最も奥の歯のため奥歯の痛みとして感じます。日本人のあごは比較的小さいため、真っ直ぐに生えずに斜めに生える傾向が高く、隣の歯との高さが不揃いになって食べかすが詰まりやすくなるため虫歯になりやすいことと、一番奥の歯は咽頭に近いため咽頭反射で奥まで歯磨きできない、また奥まで歯ブラシが届いていないことなどで不潔になりやすいことが原因で起こる炎症です。歯肉は赤みを帯びて腫れます。
歯のまわり(歯周組織)・親知らずの痛みの治療法
軽度の智歯周囲炎は原因になっている清掃不良を改善することで解消しますが、生えている方向や位置が悪いと清掃だけでコントロールができないため、抜歯も一つの選択肢になります。虫歯になっている場合は虫歯の治療で物が詰まらなくできれば保存することも可能です。症状がひどい場合は抗生物質の服用で一時的な症状の改善を図ります。日頃の清掃により感染や炎症を起こさないコントロールができるか否かで保存と抜歯を判断されるといいでしょう。親知らずの詳細はこちらへ
歯槽粘膜の痛みの原因
痛みの原因は誤って頬の内側を噛んでしまった、食べ物や化学物質や非常に熱いものなどによって粘膜を傷つけた、粘膜のカンジダ菌などの感染、全身疾患に伴う場合などがあります。粘膜の痛みで多いのは口内炎ですが、アフタ性口内炎、カンジダ性口内炎、ヘルペス性口内炎、カタル性口内炎などがあります。日常臨床で多く目にするのはアフタ性口内炎です。その原因はよくわかっていませんが、ビタミンB2などの栄養不足、睡眠不足、疲れやストレスによる免疫力の低下などが考えられています。熱を帯び周囲が赤い潰瘍が頬や歯茎、唇の内側、舌などに発生します。
歯槽粘膜の痛みの治療法
アフタ性口内炎の原因自体がよくわかっていないため、治るまで口内炎を何かで覆う、テトラサイクリン軟膏やステロイド軟膏を塗布する対症療法となります。
歯ぎしり・食いしばり・噛みしめ癖による歯の痛みの原因
歯が背負うことができない程の強い力、または歯の限界は超えない弱い力であってもそれが持続的に長時間続いた場合に歯自体と歯茎には問題がなくても歯が痛むことがあります。歯がすり減るほどの強い力がかかる歯軋り、就寝時や日中の上下歯同士の常態的な接触である食いしばりや噛みしめ癖などです。わかりやすく例えると、歯が突き指をした状態だとお考え下さい。こうした行為を行った後に起きる痛みですから、行っていない時間帯では痛みが消える痛みの波がある場合があります。
歯軋り・食いしばり・噛みしめ癖の治療法
歯ぎしり等の治療は精神的なストレスや歯の悪い噛み合わせをなくすことが前提ですが、歯ぎしりの決定的な治療方法はないのが実情です。その効果に個人差がありますが、最も効果があるのは熟睡です。
他にナイトガード(またはバイトガード)と呼ばれるマウスピースを装着することで歯同士が直接接触するのを和らげる治療法、 歯ぎしりする歯を削って噛み合わせを修正する、自己暗示方法などもあります。歯に原因があるものはある程度修正が可能であっても、脳が命令して行うことや無意識の習慣となっているものですので、歯科的対応には限界があります。こうした悪習慣がなくなれば痛みから解放されます。
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歯をぶつけた・硬いものを噛んだ場合の歯の痛みの原因と治療法
先ほどの「歯軋り・食いしばり・噛みしめ癖」同様に歯の限界を超える強い力が一時的にかかった結果の痛みです。歯と歯を支える組織に問題がなければ安静にして放置すれば治りますが、歯を支える組織に損傷があったり、歯がグラついたり、歯の位置がズレたりした場合は治療が必要です。前歯の痛みで多いのがぶつけたなど外傷による歯の痛みです。外力からその歯を保護する目的で一時的に隣の歯と固定して経過を見ることがあります。しかし歯の見た目に問題がなくとも歯にヒビが入ったり次にお話しする歯の破折などが起こっている可能性もあるため、かかりつけの歯科医で診てもらうことをお勧めいたします。
歯が割れた・欠けた場合の歯の痛みの原因と治療法
外力により歯が欠けたり割れたりする場合が多いと思います。そのため上記の歯をぶつけたでお話しした内容にとどまる場合と、割れや欠けが歯質だけでなく歯の内部の神経にまで及んだ場合では治療が異なってきます。また割れ方欠け方によっても治療法が大きく変わります。そのため歯の状況をしっかり調べる必要があります。小さく欠けた場合は詰め物や被せ物、神経に到達するほど大きく欠けた場合は神経の治療、それよりも大きく欠ければ抜歯が適応となることもあります。同時に歯が割れた・欠けた原因を調べ、原因を解消し、再び割れたり欠けたりしないようにすることが大切です。
歯が欠けた場合の詳細は「歯が欠けた・折れた」をご覧ください。…ブログへリンク
歯と歯の間に物が詰まった場合の歯の痛みの原因
歯と歯の間が空いている場合や、隣合う歯同士の背丈が違う場合、歯と歯の間にかみ合う歯が当たる場合などに食べたものが詰まりやすくなります。物が詰まると歯同士が股裂きになっている状態ですので、歯が押されて痛みを感じる(圧迫感)や不快感を感じます。この痛みの特徴はデンタルフロスや糸ようじで詰まったものを除去すると痛みがなくなることです。詰まれば取ればいいと安易にお考えにならないでください。よく物がつまる場所は虫歯と歯周病の起きる場所でもありますのでご注意ください。
歯と歯の間に物が詰まった場合の治療法
人工物を詰める・被せる方法や矯正治療により歯と歯の間の隙間や隣の歯との背丈を修正して詰まらない状態に改善することをお勧めいたします。また歯と歯の間に隙間がなくて詰まる場合は噛み合わせによることが多いため、噛み合わせ修正が必要になる場合があります。症例により対応が異なりますので医院でご相談ください。
歯と歯茎に問題がないのに出る痛みの原因
歯に痛みで他院を受診したものの歯や歯茎には何の問題もないと診断されてセカンドオピニオンとして当院を受診される方々が最近散見されます。その多くが無意識に歯を長時間弱い力で接触させる癖(TCH)です。
こんな痛みが軽く歯を接触させるだけで起こることに簡単にはご理解が得られませんが、歯同志の接触をやめた途端、嘘のように痛みが消えた、最近あまり痛まなくなったなど、驚きのお声を伺っています。
詳細は「歯と歯茎に問題がないのに出る痛み」をご覧ください…ブログへリンク
その他の痛みの原因
非歯原性歯痛と呼ばれる歯に原因がない痛みもあります。
口の周りの筋肉や三叉神経痛、帯状疱疹、片頭痛などの神経血管性の痛み、心因性の痛みなどです。
前歯が痛い・奥歯が痛い
ここまでお話ししてきた歯が痛い原因と対処法は、原則的に前歯と奥歯両方に共通する内容です。ただし歯をぶつけた等の外傷性の痛みは前歯に起こる比率が高く、親知らずの痛みは奥歯にしか起こりません。それ以外は前歯や奥歯という歯の場所でなく、痛みの原因が何かによって前歯にも奥歯にも起こりえるとお考え下さい。
歯が痛いときの応急処置について
歯と歯の間に物が詰まった場合の歯の痛みは詰まったものを取れば痛みはなくなります。糸ようじやフロスなどを使って取ってください。それ以外の痛みについては虫歯の穴に詰まった食べかすを取る、痛い部分を冷やす、痛み止めを服用するなども多少の効果があるでしょうが、下手に刺激をすれば返って痛みが増すことがあるため、基本的には応急処置はありません。かかりつけの歯科医院に連絡されるのが最も良い応急処置だと思います。