70代男性「奥歯で噛むと痛い」抜歯後インプラントを入れて噛める日常を取り戻した症例

2024.04.22

治療前

画面左の一番奥の歯である右下奥歯(右下7番)で噛むと痛いとお見えになられました。

レントゲンからは歯を半分抜歯して残った根と手前の歯を一体化させた被せ物が入っていることがわかります。

治療中

歯が半分で噛む負担に耐え切れないと判断し抜歯後にインプラントを入れた状態です。

インプラント埋入後のCT(上から見た状態)では丸く写るインプラントの周囲に十分な骨があることがわかります。

治療後

右下7番だけを入れ替えた治療後の写真です。噛む力が非常に強いため壊れる懸念からセラミックを避け噛む面は金属にしました。

治療後のレントゲンでは異常はなく、手前の歯は負担から解放されたため根の周囲の黒い部分がほとんどなくなっています。

その他

治療から12年後です。噛む力が非常に強いため、手前のセラミックの一部が壊れ、インプラントにかかる負担を軽減するため被り物の面積を狭く修正しました。

同じく治療12年後のレントゲンです。骨の減少もなくいい状態を維持しています。

年代と性別 70代・男性
はじめのご相談内容 右下奥歯(右下7番)で噛むと痛いとお見えになられました。
診断結果 拝見すると右下7番は2本ある根の内奥の根1本をすでになくされており、手前の根1本と右下6番がつながった被り物が入っていました。(治療前1と2画像)
7番を悪くされた時に7番全部を抜歯すると入れ歯やインプラントが必要になるため、それらを行わないで多少の噛む効率維持の観点から歯を半分だけ残し、半分になって弱くなった歯の補強のため手前の6番と一体化した被せものをお入れになられたのだと推察しました。しかし噛むと痛みが出ることはその方針が破綻をきたしていることであり、本来根が2本必要な場所に1本しかない無理が通らない状態になっていると判断しました。

このまま放置すれば手前の6番にも負担がかかり続け、炎症が拡大すると6番を支える骨も被害を受けるため6番の寿命にも関わってきます。この無理な関係を清算し、6番を自由にさせてあげる必要があるとご説明しました。
噛むと痛い症状の原因は右下6番は片足状態で無理をしている状態であるだけでなく神経がなく強度が落ちてもろくなっているため、根のヒビ(割れ)による症状の可能性がありました。ご年齢を疑うほど骨格と筋肉が豊かで噛む力も相当強いことが伺えます。それも一因にもなっていると考えました。
行った治療内容 噛む力が一般の人よりかなり強いことが予想されるため、抜歯したままでは神経がなく強度が弱くなっている右下6番は早晩失う懸念があります。強い力が6番に一極集中することを避けるにはその力を分散してくれる能力のあるしっかりと噛める代用物が必要です。
その観点からすると入れ歯は不向きです。食物を噛むことはできても、強い力を支える能力はないからです。消去法でこの場合適しているのはインプラントしかありません。幸いにも骨格に恵まれているため、感染により骨が喪失していない今なら条件がいいインプラントが手に入ると考えご提案しました。
同じような過度の力による歯の喪失が原因で反対側(左下奥歯)にすでにインプラントをお入れの方でしたので、現状へのご理解と治療法に対する経験値からインプラントをご希望されました。治療法のメリット・デメリットへのご理解と治療計画への同意が得られましたので、右下7番と6番を切り離し、7番の被り物を除去すると懸念通り根にヒビ(割れ)が入っているのを確認したため抜歯を行いました。抜歯と同時に事前にCT画像から最適なポジションを判断していた計画に則りインプラントをお入れしまし抜歯した後の骨の穴とインプラントの間のスペースに増骨材(骨の再生を誘導する)を入れて骨の回復の手助けをしました。また術中もCT撮影し安全に的確な治療に努めました。
術後インプラントが骨とくっつくまで4か月待ち、インプラントと人工歯を連結するための土台を入れる2次手術を行い、仮の歯をお入れして経過観察を行いました。(治療途中1と2画像)
毎日の生活での異常が見られなかったため、歯型をお取りして被せもの(噛み合わせ部分が金属でサイドがハイブリッドセラミック)を仮付けして治療が終了しました。噛み合わせ部分を金属にしたのは、この方は噛む力が非常に強くセラミックでは割れるリスクがあると考えたためです。特定の歯に強い力が加わるのを防止するために、夜間はナイトガード(マウスピース)をお入れになられています。(治療後1と2画像)
このケースのおおよその治療期間 約6か月
おおよその費用 491,510円(骨造りと仮歯を含む)
現在の様子 治療後は食生活や日常の問題はみられませんでした。しかし治療終了2年後の定期健診でインプラント検査で異常が見つかりました。噛む力が非常に強いため人工歯がついている土台とインプラントを止めてあるネジが緩んだことと、インプラントに強い負荷がかかったため骨との結合が弱くなったためでした。被り物に穴を開けて土台を外し、人工歯を外して噛む力がインプラントにかからないようにしました。
4か月ほど経過観察を続けながら時折インプラント検査を行い、再度骨とインプラントがくっついたのを確認した時点で、被り物の噛む面積を小さく加工して再度取り付けました。噛む面積が少なければ咀嚼能率は多少落ちますが、噛む力の負担を軽減することができるためです。
以後6年が経過していますが、その間のインプラント検査やレントゲン検査では異常が見られていません。
1本手前の右下6番(ご自身の歯)は金属の上にセラミックを接着したメタルボンドクラウンが入っていますが、現時点ではセラミックの一部が強い噛む力に負けて欠けています。ご本人は噛めるためこのままでいいとのことで経過観察中になっています。(その他1と2画像)
治療のリスク ・外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います
・メンテナンスを怠ったり、喫煙したりすると、お口の中に大きな悪影響を及ぼし、インプラント周囲炎等にかかる可能性があります。
・糖尿病、肝硬変、心臓病などの持病をお持ちの場合、インプラント治療ができない可能性があり、高血圧、貧血・不整脈などの持病をお持ちの場合、インプラント治療後に治癒不全を招く可能性があります。
クリニックより 治療後2年のインプラントの異常でお判りのようにインプラントは入れて終わりではなく、継続したチェックが長くインプラントライフを送る上で必須なのです。同時に天然の歯と同様にプラークによる歯周病の管理も必要です。
これが当院では定期健診とメンテナンス(クリーニング)をお受けになられることをインプラント治療の前提としている理由です。

インプラントの詳細は下記をご覧ください。
インプラントとは
インプラントの種類
インプラント治療を受けられない人
骨が少なくてもインプラントを受ける方法はあるのか
インプラントと天然歯の違い
骨が痩せてしまった場合の将来的なリスク