入れ歯の手入れ方法と耐用年数
目次
入れ歯のお手入れについて
汚れた入れ歯を使っていると …
入れ歯はご自身の歯と同じように食べかすやプラーク(歯垢)が付着します。このプラークにより次のような問題が起こる可能性があります。
〇誤嚥性肺炎を起こすリスクがある
入れ歯は水や細菌がしみ込みやすい材質であるため、歯より汚れやすく不潔になります。汚れたままの入れ歯は細菌の塊となり、唾液中の細菌数が増加し、その唾液が気管に入れば誤嚥性肺炎を起こす危険があります。肺炎は日本人の死因の常に上位を占めており、誤嚥性肺炎は嚥下機能が低下しやすくなる高齢者を中心に大きな問題となっています。
〇義歯性口内炎や入れ歯周囲の炎症が起こる
不潔な入れ歯は歯茎の炎症を起こします。入れ歯と接触している歯茎や粘膜部分に赤味がある、痛みがある場合は要注意です。入れ歯の縁の部分の歯茎の痛みや腫れ、入れ歯の内側の歯茎の痛み、また口臭や口内炎の原因になります。
〇残った歯に虫歯や歯周病が起こる
入れ歯自体は人工物ですから虫歯にはなりませんが、その汚れ(プラーク)が残った他の歯の虫歯や歯周病を引き起こす危険があります。歯と同じように清潔にしておくことが大切です。
入れ歯のお手入れ方法
1. 入れ歯を洗う際には入れ歯を落として壊れたり排水口に流さないため、水を張った洗面器の上で手の平に乗せて流水下で入れ歯の掃除をしましょう。うっかり手が滑って入れ歯を落としても水面に落ちるため、入れ歯の損傷を防ぐことができます。
2. 入れ歯を洗う際には義歯用ブラシ(写真参照)を使うと普通の歯ブラシより効率がよく、また硬いプラスチック柄の部分が入れ歯に当たりにくいため、磨きやすい上に入れ歯を落とすことが少ないでしょう。ブラシが使いづらい場合はスポンジやガーゼで洗ってみてください。歯を磨く時に使う歯磨き粉(ペースト)は研摩材が大なり小なり入っているため、入れ歯が傷つき返って汚れが付きやすくなります。そのため入れ歯専用の商品か水だけで洗ってください。
3. 毎食後に樹脂部分は義歯用ブラシを使って優しく磨き、針金など汚れが残りやすい部分は丁寧に磨いてください。
4. 就寝前には容器の中に水を張った中に保管してください。入れ歯は長期間乾燥状態にしておくと変質することがあります。また3日に1回は義歯洗浄剤を入れたぬるま湯に清掃した入れ歯をメーカーの指示時間漬け置きして一晩除菌しましょう。入れ歯のプラスチックは多少の水分がしみ込むことと食べ物の有機物が付着するためどうしても入れ歯には雑菌が繁殖しがちです。見た目には綺麗に見えても細菌の繁殖で歯茎の健康が侵されることもあります。除菌効果のある洗浄剤を使えば細菌の繁殖を抑えてくれます。除菌目的で熱湯や漂白剤を使用すると、入れ歯の変形や変質の原因になりますので避けましょう。
5. 翌朝漬け置きが終了したら、義歯ブラシを用いてよく入れ歯を洗って洗浄剤を流してください。
入れ歯保管時の注意点
入れ歯を保管する際に注意していただきたいことがあります。
〇保管する前によく清掃する
入れ歯の汚れが取れにくくなりますので、外したらまずお掃除をしましょう。
〇乾燥させない
入れ歯は水分がある口の中に入れることを前提としているため、適度な湿度が必要です。入れ歯は乾燥状態に弱く、変形や破損の原因になりますので水中で保管しましょう。入れ歯の一部だけでなく全体が水中に浸かる容器をお選びください。乾燥すると汚れも取りづらくなります。ただし長期間になる場合は毎日水を交換する必要があります。
しかし基本的には入れ歯は長期間外すことは避けた方が得策です。口の中が変化し今までの入れ歯が入らない、しっくりこない原因になります。使い続けることが入れ歯ライフには大切です。
〇紛失に注意
阪神大震災の時に被災者が非常に困ったことの一つが入れ歯の紛失でした。メガネのように他人の物を借りることができず、新しい入れ歯を作るのに何週間もかかるからです。日常臨床でも比較的多い入れ歯のトラブルが入れ歯の紛失と誤って落としたことによる入れ歯の破損です。
〇保管容器を決めて家人に周知してもらう
よく耳にするのが入れ歯を外してティッシュにくるんで保管していて、軽いため家人にゴミと勘違いされて捨てられたケースです。これを防ぐために、入れ歯は家人にも周知された決まったタッパーや容器で保管するか、一目で一般的な容器と違うことがわかる入れ歯専用ボックスがお勧めです。入れ歯専用ボックスは入れ歯洗浄剤を用いた漬け置きにも使え、上下2つの入れ歯が入るもので、旅先でも重くなくかさ張ることがありません。当院では\110でお譲りしています。
入れ歯の耐用年数について
入れ歯も物としての材質的劣化や摩耗などの変化と年を追うごとに変化するお口の状態から、使用可能期間は有限であることには間違いはありません。公的機関の統計では入れ歯の平均寿命は4~5年となっています。しかしどなたにも合致する正確な耐用年数はございません。入れ歯を支えるあご(歯茎)の痩せ方や部分入れ歯であれば残った歯の状態など、入れ歯そのものよりお口の状態が年々変化しますがその度合いが人により違ってくるからです。例えば部分入れ歯を使っていて、さらに1本歯を失った場合に入れ歯の修理でなく新しく作るなど、必ずしも入れ歯自体の耐久力がなくなった訳でない寿命もカウントされているためです。当院でも入れ歯のフレームや噛み合わせに耐久性のある金属を部分使用したケースでは10年以上お使いの方もいらっしゃいます。また入れ歯の管理や扱い方は個人差が大きく、寿命にも関連します。
基本的に入れ歯は歯と違いあごの粘膜で噛む力を負担しています。本来噛む力を負担するのは骨の役割なのに無理を承知で粘膜に負担させているため、長年に渡ると骨が痩せていく構造になっています。これが年数が経つと段々入れ歯が合わなくなってくる一因です。食いしばりや噛みしめをする、入れ歯を不潔にしているなどがあれば骨の痩せは加速します。
入れ歯は物としての劣化が避けられないものですし、体も口も年々変化する事も避けられません。しかし入れ歯の劣化よりこうした問題の方が、入れ歯の合う合わないや寿命に大きく関わっています。一度入れ歯を作れば一生ものとお考えにならず、時折手を入れてあげる必要があるものなのです。
この合わなくなった入れ歯を無理をして使っていると、歯茎の痩せが加速しますので、合わないと感じたら入れ歯の修理や作り直しを行うことで歯茎や骨の変化を少なくすることができます。入れ歯は修理、再制作は可能ですが、痩せた骨は元にはもどりません。骨が痩せれば、入れ歯の安定、かむ力は落ちていきます。定期検診によるこまめなチェックをお勧めします。
入れ歯が合わなくなる原因は他にもあるため、入れ歯が合わないとお感じの方は「入れ歯が合わない」をご参照ください。
〇入れ歯関連ページ
・入れ歯が外れやすい
・入れ歯が合わない
・入れ歯が痛い
・入れ歯で噛めない
・入れ歯で喋りにくい
・入れ歯の見た目が悪い
・入れ歯が気になる、食べ物がつまる
・入れ歯の種類
・当院の総入れ歯の作り方
・入れ歯とブリッジとインプラント