歯を抜いたら
歯を抜いたら放置しても良い?
三鷹駅から徒歩1分の歯医者、高岡歯科医院です。
残存歯とは、読んで字のごとく「お口に残っている歯」のことです。虫歯や歯周病で歯を失くしてしまい、「1本だけだから別に問題ないだろう」と言ってそのまま歯が抜けた状態で放置する方が少なくありません。残された歯は失くした歯の分も働くことになってしまい、負担が大きくなります。残存歯に負担がかかったままだと、将来どのようなリスクがあるのかを皆さんにお伝えいたします。
目次
歯を失った場合に考えなければならないこと
歯は元来ものを食べるためにありますので、噛む力を支えることができるようになっています。親指の爪程の面積に最大60Kgもの力が噛む度に繰り返しかかりますが、歯が骨の中にしっかりと植わっていれば一食で数百回、一年で何万回もの力に耐えることができます。「美味しい」の裏側で黙々と働いてくれているのです。
ところが歯を失うと同じ仕事を少なくなった残りの歯でこなさざるを得ず、残った歯にはこれが余分な負担となり、時間の経過と共に疲労は蓄積していきます。詳しくは後で述べますが、1本また1本と歯を失っていく最初のきっかけになります。まだ噛めると油断するのは間違いで、いつかそのつけを払わなければならない可能性を秘めています。
人の身体には不必要なものなどなく、一本一本に役割があり、全てそろって正常に機能するのです。ですから歯を失った場合に考えなければならないことが2つあります。
歯を失った原因
一つ目はどうして失くしてしまったのかということです。原因を明確にして今も存在するその原因を撤去する必要があります。なぜならばその原因がまだ存在すれば、今度は別の歯を失う可能性が高いからです。
残存歯の負担を軽減する方法
二つ目は残った歯の負担を軽減することです。失った歯に機能的に最も近い治療をお受けになられ、歯を失う前に出来るだけ近づける事が出来ればより良いでしょう。
残存歯の負担を軽減する方法
今回は残存歯の負担を軽減する方法のお話しをさせていただきます。
人は過去の惰性(習慣)の中で生きて行くことが多く、歯を失ったからといって軟かい食事に替えたり噛む回数を減らしたりはしないものです。歯を失って少なくなった歯で以前と同じものを食べるため、残った歯には負担が増えます。この余分な負担は、年齢も若く歯や骨が丈夫であれば当面は維持できるでしょうが、年齢の経過と共に負担は蓄積し、ある日突然に歯が痛い、歯茎が腫れる、歯が割れる、歯周病や虫歯が発生する、歯がぐらつく、かみ合わせが狂って歯の短命化やあごの関節の不調和などを引き起こすことがあります。今は問題が顕著化していないだけで水面下ではこうした予備軍であることをご理解いただきたいと思います。
残った歯への負担を例えると、お神輿を3人で担いでいたとしてそれが1人抜けて2人になった状態です。担ぎ手が若くて健康であればしばらくはもちますが、そう長くは続きません。ましてや残った担ぎ手に腰痛や足腰に持病があればなおのことです。その持病に該当するのは歯に歯周病がある、歯の神経が治療でなくなっている、歯並びが悪い、噛みしめや歯ぎしりなどの悪習慣があるなどです。
年齢を重ねても残る欲は食欲だと言われています。これから先を考えると今なんとかしなくてはなりません。方法としては、こうした持病(歯の寿命を短くする要素)を極力排除することと、失った歯のピンチヒッターを呼んでくることです。何もしないことが最悪の選択肢です。
こした事態に陥らない方法をご紹介いたします。
- できるだけ歯の神経を取らない
- できるだけ歯を削らない
- 歯周病にかからない、歯周病を治療する
- 歯を抜けたままにしない
- 食いしばりや歯ぎしりをやめる
などです。もし一つでも該当する項目があるのなら予備軍だとお考え下さい。
歯を抜けたままにしないための治療
今度は「歯を抜けたままにしないための治療」についてお話しします。
必要があって生えてきた歯を失ったのですから、できるだけ元の状態に近く回復することが大切です。一般的に失った歯のことは語られても残った歯からの視点が希薄な傾向にありますが、先ほど歯の負担でお話ししたのでご理解いただけると思います。
さらに抜けたままにしておくと、歯が傾く、歯が伸びてくるなど、歯の位置移動が起こりかみ合わせが狂う、歯周病や虫歯に罹りやすい、肩こり等の不定愁訴を起こしやすい、そして歯の寿命が短くなる、あごの関節にも負担がかかり顎関節症などを引き起こす懸念があります。
抜けた歯を補う代表的な方法としてはインプラント、ブリッジ、入れ歯の三種類がありますが、万能な歯と違って、それぞれに利点と欠点があります。大小はありますが、どの選択肢も失った歯の代用として噛むことはできます。しかし世間一般では噛むことだけに目が向けられているように感じており、残った歯の寿命という視点が希薄なような気がしています。それぞれの特徴は他のページに譲り、ここでは残った残存歯に負担がかかったままだと将来どのようになるかという観点からお話ししたいと思います。
残存歯に負担がかかりやすい治療
部分入れ歯は噛む力の多くをあごの粘膜で負担しますが、入れ歯を支える歯に揺する力が加わり残った歯への負担が発生する構造です。一方でブリッジは歯の頭数だけは揃いますが川の上にかけた橋のように両岸で橋全体を負担するもので、先ほどのお神輿の例えのように噛む力の全てを残った歯で負担する構造になっています。
両者とも残った歯へのこうした余分な負担の蓄積が将来の不安の種になっているのです。
この将来の不安は万人に起こるとは限りませんが、日常臨床でよく目にする光景であり将来のリスクとご理解ください。よく目にするのは、入れ歯の針金を引っ掛けていた歯がぐらついてきた、その歯の歯周病が治療でもあまりよくならない、重症では歯が抜けた、ブリッジを支えている神経のない歯が割れる、折れるなどをよく目にします。
共通するのは歯の許容範囲を超えた力を慢性的にかけ続けたことです。要は今はよくても無理をさせないことなのです。さらに元々の歯の強度を治療によって落としてしまうことで拍車をかけてしまいます。
インプラントの優れている点
一方でインプラントは失った歯の代わりに骨の中に埋め込む構造のため、他の歯の手助けは不要なため残った歯へ負担をかけない特徴があります。この点がインプラントの最も優れた点だと私は考えています。
ブリッジや入れ歯で失った部分に代用歯を作った場合、虫歯も無く、歯周病も無い、そして歯ぎしりやかみ合わせが無く、他に失った歯が無く、神経の治療をしていない、かみ合わせも全ての歯で均等に噛めているならすぐには問題は起きないでしょう。しかし、先にお話しした負担の蓄積は無視できないものであり、前に述べた歯のトラブルを起こし歯の寿命を短くするリスクを常にはらんでいると考えています。
その治療を受けた後しばらくするとまた同じ状況になりその繰り返しで、歯を一本失った事をきっかけに、次の歯、また次の歯と歯をどんどん失う方向に進んでいってしまい、この流れは総入れ歯になるまで続いたと治療台で患者さんから伺うことがよくあります。
歯を一本失ったときにその後起こる事を予想し、失った部分だけ見て治療するのではなく、残っている他の歯の状態を良く精査して治療をするべきだと私は思います。たかが一本と思われるかもしれませんがその一本の仕事はとても大きなもので、そのおかげで今まで食べてこられました。これからもまだまだお世話になっていきたいものです。肩代わりする歯の事を考えると安易に治療法を決められるほど実は簡単ではないのです。
歯はその人の一生に連れ添うパートナー
そして、出来る事なら歯を失う前に何らかの手立てを講じ、将来起こる可能性のあるトラブルを事前に回避したり、起こるとしても先送りできるようにすることの方が大切だと考えています。虫歯や歯周病、根の病気、歯ぎしりなどの様々な病気は悪化していけば必ず歯を失う方向に進行します。
人の一生は長く、歯はその一生に連れ添うパートナーです。
小さな治療でも、今だけでなく今後の事を考えて治療することが大切ではないでしょうか。
残存歯に負担がかかったままだと将来どのようになるかというお話をさせていただきましたが人によって歯並びやかみ合わせ、残った歯の本数や状態などが違います。
その方に合った治療法を分かりやすくご提案できるように努めてまいりたいと思います。
こちらの記事もご覧ください。
・入れ歯・ブリッジ・インプラントどれがいいか
・抜歯した後の治療は何が良いのか