50代女性「前歯の差し歯がぐらついて噛むと痛い」奥歯の噛み合わせを改善し顎全体でしっかり噛めるようになった症例
2023.08.01
治療前
治療後
年齢と性別 | 50代・女性 |
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ご相談内容 | 「長年、前歯の差し歯がぐらついて噛むと痛い。ずっとこのままの状態が続くのか、歯を失うのではと不安。また、左下奥歯が欠けて困っている」とセカンドオピニオンで当院にご来院いただきました。 |
カウンセリング・診断結果 | 拝見すると、口を閉じるたびに、ぐらついている右上の前歯(中切歯/1番)を右下の前歯(中切歯)が突き上げてしまっていました。 また、左下の奥歯(第2大臼歯/7番)の詰め物が欠けていました。全体的に、特に左の奥歯7本(上第1小臼歯/4番、上下第2小臼歯/5番、上下第1大臼歯/6番、上下第2大臼歯)の噛み合わせが悪いことが、ぐらつく原因の根本と判断しました。 左だけでなく右の奥歯7本(上第1小臼歯、上下第2小臼歯、上下第1大臼歯、上下第2大臼歯)は治療に治療を重ねた経緯があり、1回の治療での歪みは少なくても、回数を重ねるごとに歪みが集積し、噛み合わせの不具合が出てきます。 そのため、前歯だけ治療するのではなく、お口全体の噛み合わせの修正と、噛みしめや食いしばり癖もあったため改善が必要と判断しました。患者様は、「前の歯科医院では、長年、差し歯の裏側を削って経過観察のみでぐらつきがひどくなった。できるだけ歯は削らず、抜かないでほしい。他の歯に負担がかかり、ぐらついている歯の二の舞は避けたい。以前のようなその場しのぎの治療ではなく、腰を据えて期間がかかっても自分にとっていいことをして、この先の不安を払しょくしたい」とご希望でした。 |
行ったご提案・治療内容 | 2通りの治療方針をご提案しました。 ①根本的な解決ではないが、今までと同じように、前歯1本だけ治療する方法。 治療対象が前歯に限定されるため、治療期間が短くなりますが、問題の本質は手つかずのままなので、また同じことが起こる可能性が高く、他の歯もぐらつくなど影響が出る懸念があります。 ②お口全体の噛み合わせを修正し、根本となる原因を解消して、できるだけ歯に問題がなかった若い頃の状態に近づける方法。 治療本数が多くなるため、費用と期間がかかる欠点があります。患者様はこれまでの経緯から、前歯だけの治療では今までと同じ繰り返しであり、長期的な問題の解決にはつながらないことをご理解されました。 ここで噛み合わせを一度リセットさせるため、②の方法をご選択されました。まず最初に、右上の前歯の差し歯を外し、噛んでも当たらないように加工した仮歯に置き換え、安静にしました。 長年の噛み合わせ不良から、歯を支える骨を相当失っておりかなり重症でしたが、患者様とご相談の上、回復する確率は低いとはいえ、抜歯を一時的に猶予してまだ歯に自立する力が残っているのなら助かる可能性に賭けてみました。前歯の経過を見ながら、上下左右の奥歯は根の治療である「根管治療」を10ヶ月かけてやり直しながら、少しずつ仮歯に置き換えて噛み合わせを修正していきました。 根管治療は歯を残すために重要な治療です。根っこ自体に問題があれば、被せ物を壊してまで再治療が必要になり、歯の寿命を短くしてしまいます。 とかく目に見える被せ物だけが重要だと思う方もいますが、それを支えている根っこ・根管治療は、建物の基礎と同じで非常に大切なものなため、時間をかけて丁寧に治療を行いました。奥歯の治療を進めている頃には、右上の前歯のぐらつきはかなり軽減し、残せる可能性に小さな灯が灯ったかに見えました。しかし患者様が誤ってその歯で噛んだことを契機にぐらつきが再開し、3次元レントゲン「CT撮影」により支えている骨がさらに無くなってしまったため、抜歯を余儀なくされました。この時お互いに「もっと早くお出会いしたかった」と話し合ったことを今も覚えています。 抜歯後の治療方法として、患者様は「両隣の歯を削ることは避けたい」とご希望されたため、両隣の歯を削って入れる橋渡しの被せ物「ブリッジ」は選択肢から外れました。また、骨の痩せが著しいため顎の骨の中に入れる人工歯根「インプラント」もできず、必然的に両隣の歯に金具を掛け歯がない所を補う「入れ歯」となりました。一度入れ歯を体験してみて生活上の不便が大きければブリッジも検討されるという2段構えでした。 治療予定の奥歯全てを仮歯に置き換え、噛み合わせの修正と日常生活での不具合がないかのチェックを行いました。 |
治療期間 | 2年弱 |
治療回数 | – |
費用目安 | ジルコニアとセラミック合計14本:987,230円 |
術後の経過・現在の様子 | 1本とは言え女性の前歯ですから、入れ歯を受け入れていただけるか心配でした。気になるようであれば、針金のない目立たない入れ歯や再度ブリッジへの変更も視野に入れていました。しかしその心配とは裏腹に苦労なく受け入れていただけました。 奥歯全体で均等に噛めるようになったため、他の前歯にぐらつきなど不具合は起きておらず日常生活や食生活面において十分に機能しています。 今回の大掛かりな治療が必要だったことを契機に、現在は定期検診でご通院いただき、噛み合わせのチェックを行っています。また、ご自宅のケアをしっかりしていただき、お口の健康を維持されています。 |
治療のリスクについて | ・治療中まれに器具の破折、被せ物や詰め物など修復物の損傷、歯の破折が起こる場合があります ・治療中や治療後に不快症状が出たり、治療後に痛みや腫れなどが生じたりする可能性があります ・噛み合わせや歯ぎしりが強い場合、被せ物が外れたり割れる可能性があります ・入れ歯は着脱式のため、食後の清掃が必要です ・最初のうちは異物感があり、慣れるまで時間がかかり、入れ歯の裏側の粘膜に傷ができる場合があります |
クリニックより | 昔に治療した根の内部の治療が不十分だと、せっかくきれいな歯を入れてもそれを支える根に問題が発生して被せた物を壊して治療する必要があるだけでなく、治療を繰り返すと歯が弱くなります。 当院では可能な限り再発をさせないため、治療期間は長くなりますが、1本の歯の根の内部の治療に1ヶ月ほどの期間をかけています。患者様との出会いが少し遅かったため、前歯を助けることができなかったことが残念です。抜歯後の骨の回復や1本に約1ヶ月かかる根の治療が左右それぞれ7本、噛み合わせの修正と試行錯誤に2年弱の期間がかかりました。 患者様が当初の思いを維持されたことで治療を継続する動機となり、美しさだけでなく自分の歯で噛めることが長続きするお口を取り戻すことができたと考えています。 継続は力なりと申しますが、この結果は患者様の努力の賜物です。 末永く維持して欲しいと、そしてそれをサポートしていきたいと思っています。 |
治療前
治療後
根の中に白く映っているものが根の先まで十分に満たされています。
この部分は再感染を防ぐ目的であり、根の内部全体が治療されていることを示しています。