入れ歯が外れやすい

入れ歯が外れて落ちてくると、食事が不自由になるだけでなく人前で外れやしないかと不安で気になって喋るのが億劫になりますね。入れ歯が外れる原因はいくつかありますが、部分入れ歯と総入れ歯ではその原因が違ってきます。何が原因で外れやすくなっているかを調べ、対応可能な対策をご提案することになります。具体的には症例により異なるため、ここでは一般的な対策についてご紹介いたします。

 

目次

部分入れ歯が外れやすい原因と対処法

針金(金具)を引っ掛けているが歯がグラついている

入れ歯を安定させるための歯自体がグラついていると、入れ歯もそれに合わせてグラつき外れやすくなります。

対処法は歯がグラつく原因を特定して治療されることと並行して、以下でお話しする入れ歯の設計変更や針金の数を増やす方法などが有効です。

入れ歯を歯に引っ掛けている針金(金具)が歯に合っていない

長期間入れ歯の着脱を繰り返したり、入れ歯を落としたなど外力が針金に加わると針金が変形してしまいます。この変形により歯に引っ掛けて入れ歯が動かない、外れないようにする力が落ちて、入れ歯が次第にゆるくなります。

この対処法は多少の変形でありかつ針金に弾力が残っている場合は、針金を曲げなおすことで回復することができます。しかし大きく変形していたり、金属の種類や経年劣化により針金の弾力が残っていない場合は調整すると針金が折れる場合もあるため、針金の再製作を伴う入れ歯の修理や入れ歯自体の再製作が必要になります。

入れ歯の設計を変更する

症例によっては入れ歯が外れようとする力に抵抗できる位置に針金を追加できれば改善が期待できます。具体的には針金を引っ掛ける歯を変更する、針金の形を変更する方法です。しかしどの歯にでも針金を設置できるとは限らず、また残った歯の形や位置、丈夫さ、植わった方向は限定されるため限界はあります。そうした理由から針金の引っ掛けるのに適さない歯もあるのです。

針金の種類を変更する

針金の金属にも種類があります。細く弾力があり歯の付け根のくびれに入り込み外れる力に抵抗しやすい反面強度が劣り入れ歯の安定には不向きな種類、多少太目で弾力は劣るが強度が高く入れ歯を安定させる能力が高い種類があります。一長一短ではありますが、どちらもその特徴を症例ごとに特徴を生かせば有用です。どこにどの種類を配置するのが適切かは設計の問題です。
針金の種類を変更する場合は修理対応、それが難しければ入れ歯自体の再製作となります。

針金の数を増やす

ポスターを壁に貼り付ける時の画びょうの数は2本より四方の隅に4本の方が安定性は増し風で剥がされる確率は減少します。それと同じ理屈で、入れ歯のを安定させ外れにくくするには針金の数が多い方が有利です。現在の入れ歯の安定や外れやすさに不満がおありの場合は針金の数を可能な範囲内で増やす方法があります。
しかし食事中に入れ歯が安定がよく外れにくいことが、程度の問題はありますが毎日数回着脱する度に大変になる傾向にあるのも事実です。また残っている歯の状態により設置できる針金の数にも限界があり、数を増やしても効果が得られない場合もありますので必要十分な場所と本数が大切になってきます。

人工歯の位置や形を可能な範囲で変更する

入れ歯の外れやすさは針金の問題ばかりではありません。入れ歯は噛む力によって押されます。その押される方向が入れ歯が外れる方向であれば、噛む度に入れ歯が外れる現象が起こりやすくなります。その押される方向は歯がない部分の土手(顎)の形や位置、噛み合う相手の歯の位置、外れやすい入れ歯の人工歯の形や位置によって変わってきます。今お話しした項目で変更することが可能なのは入れ歯の人工歯だけです。噛み合う歯と当てなければ噛めないため変更範囲が限局されることともあり、一気に外れにくくする程の効力はありませんが、その他の設計変更などと併用することで効力を発揮することができます。上下総入れ歯の場合は噛み合う人工の歯も修正できるためこの効力は部分入れ歯より大きくなります。

総入れ歯が外れやすい原因と対処法

入れ歯の大きさ

総入れ歯の安定と外れやすさの大部分は、入れ歯のピンク色の歯茎部分の形と大きさで決まると言っても過言でありません。床面積の広いタンスと狭いタンスではどちらが地震で倒れにくいかお分かりのように、小さな面積の入れ歯は邪魔にならずいいように思われていますが、入れ歯も床面積の広い方が、安定がよく外れにくくなります。ただしこれにも限度があり、大き過ぎる入れ歯は後でお話しする顎や粘膜の動きの邪魔をして外れやすくなります。

この丁度いい入れ歯の大きさや形には、入れ歯の縁がどこに設定されているのか(入れ歯の大きさ)や厚みなどの形が大きく関係しています。総入れ歯は部分入れ歯と違って入れ歯を外れにくくするための歯に引っ掛ける針金がなく、またあごの粘膜とは接着しておらず単に乗せているだけの構造だからです。
総入れ歯は吸盤のように粘膜と入れ歯の裏側の間が陰圧になることで吸い付いているのでます。しかし吸盤と同じく入れ歯の淵から空気が入れば陰圧はなくなり簡単に外れてきます。吸盤効果がなくなるのは、入れ歯の淵やピンク色した入れ歯の表側の形が粘膜の動きと調和していない場合や、人工歯の配置が適切でなく噛む度に入れ歯が外れやすい方向に力がかかる場合などに起こります。この場合は入れ歯が当たって痛い症状を伴う傾向にあります。
上顎より下顎の総入れ歯に外れやいご不満が多いのは、入れ歯の面積が上顎の方が広いため安定がよい事と、下顎は食べる・喋る度に活発に動く舌の動きが入れ歯と干渉する事、その活発な動きのため入れ歯の縁から空気が入って入れ歯の吸盤効果が失われる事です。

総入れ歯が粘膜に吸い付いて外れにくくするには、多少の誤差であれば現在の入れ歯の修理、そうでなければ新しい入れ歯を作製することになります。しかしただ単に入れ歯を新しくするのではなく、食べる・喋る時の粘膜の動きや位置は一人一人違うため、毎日ご自宅で仮の入れ歯を使ってその入れ歯自体にそれらの粘膜の動きを記録していくことが理想です。一度の型取りではその瞬間の記録でしかないため、複雑に変化する粘膜の形に合わないのです。治療期間はかかりますが、満足な入れ歯のための投資とお考え下さい。ただしこうした作り方は保険の範囲を超えてしまうことをご理解ください。
当院の総入れ歯の作り方」をご参照ください。

総入れ歯と歯茎の適合性

お顔が年齢に合わせて変化していくように、歯茎も変化していきます。特に歯を失うと骨が痩せていくため年月と共に骨にくっついている歯茎の変化する量が多くなります。
しかし入れ歯は作製当時のままであるため、変化した歯茎と合わなくなり総入れ歯は外れやすくなります。当然先ほどお話しした吸盤効果も弱くなります。
この変化の個人差は大きいものですが、入れ歯を作ってから年月が経過している場合は歯科医院で調べてもらうといいでしょう。総入れ歯に他の大きな問題がない場合は入れ歯の裏打ち(入れ歯の内面を歯茎に合わせて補修する)、場合によっては総入れ歯の作り直しでこの問題は解消できます。

総入れ歯の噛み合わせ

総入れ歯の外れやすさは総入れ歯の安定性と関りがあります。少し前の部分入れ歯の「人工歯の位置や形を可能な範囲で変更する」でお話ししたような、噛み合う相手の歯と総入れ歯の人工歯間の噛み合わせによる総入れ歯の不安定が原因となっているケースがあります。左で噛むと外れる、前で噛むと外れる、など特定の場所で噛むと外れやすい場合はこの可能性を疑ってもいいでしょう。ただこの場合も歯茎と入れ歯の人工歯の関係も関与しますので全体的な視点から見る必要があります。
人工歯が内側過ぎても外側に寄り過ぎても、また上の前歯が前に出っ張り過ぎても外れやすくなります。そして人工歯が内側過ぎる場合は舌の動かせる空間が狭くなり窮屈に感じ、外側に寄り過ぎると頬の内側を噛みやすく入れ歯が邪魔に感じやすい傾向があります。
このような噛み合わせの左右・前後的な視点だけでなく、上下的な視点(上下の歯同士がどの高さで噛み合うのか)も大切です。上下的視点の詳細は「入れ歯で噛めない」をご覧ください。
この原因による総入れ歯の外れやすさの解決策は、人工歯の配置場所を可能な範囲内で変更することです。しかし先ほどお話ししたような他の要素との釣り合いも必要ですので、総合的な観点から試行錯誤する治療ステップが大切になってきます。保険の一度の入れ歯の型取りや、一時の試しでは省略せざるを得ないステップです。

唾液の分泌量

総入れ歯は吸盤効果で歯茎に吸い付いていると先にお話ししましたが、乾燥した表面より水で濡れた表面につける吸盤が吸着効果が高いことからお分かりいただけるように、口の中の唾液の量が総入れ歯の吸盤効果に影響します。唾液の分泌量が少ない場合は、総入れ歯は外れやすくなります。
内服薬の副作用で唾液量が減少している場合は、主治医とご相談になり同等の効果がある他の内服薬に変更してもらえるかご相談されるといいでしょう。それ以外ではこまめに人工唾液や水分の補給を行う、何かの食品を口の中に入れておく方法もあります。人は食べ物が口に入れば唾液が分泌されるためですが、甘味料や有機物は他の歯への悪影響があるため入れ歯にくっつかない入れ歯用のガムなども一つの方法でしょう。

最後に

総入れ歯の外れやすさはこれまでお話ししてきた原因すべてが解決できて初めて解消できるものです。何か一つでも欠ければ達成できません。快適な入れ歯ライフのために、時間をかけて入れ歯製作にお付き合いいただければと思います。

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