歯科と金属アレルギー
最近のアレルギー疾患の増加に伴って、金属アレルギーに対する関心が高まってきています。
しかし他の疾患と区別がつきにくいため、難治性の皮膚炎と誤解されることもあります。
一度起こしてしまうとその程度によっては顔面から手、全身にまで湿疹のようなものや水泡ができて外に出ることもはばかられるなど日常生活もままならなくなることすらあります。
中にはどこの医療機関に行っても原因不明と言われ、やっとたどり着いたのが金属アレルギーだった。
お口の中の金属を全部外したところ、起き上がることも困難だった人がやっと日常生活ができるようになった。
などの症例も聞きます。
NHKのクローズアップ現代をはじめ、雑誌などでもよく取り上げられていますのでご存知の方も多いことでしょう。
目次
金属アレルギーとはどんなもの?
金属がイオン化(目に見えない程度溶ける)すると表皮蛋白に結合し、完全抗原になると考えられています。
この金属メッキをしたような表皮蛋白は、身体にとって異物と認識され、こうした抗原情報を持ったTリンパ球が作られている身体の状態を感作といいます。
一度感作が起こり、次回抗原(同じ金属)が身体に侵入すると、それに身体がアレルギーという拒絶反応を起こすことがあるのです。これが金属アレルギーの正体です。
簡単に言うと、リンパ球という免疫を担う細胞と金属イオンとの反応によって起こります。
人によって反応が違うため、発症する人、しない人、その症状の程度は様々です。
東京歯科大学での600名を対象とした金属アレルギーの検査の結果、いくつもある金属の中で1つも陽性反応(金属アレルギー反応)がなかったのは約半数でした。
これを単純に日本人の平均とするには無理がありますが、かなりの方々に何らかの金属アレルギーがある可能性があります。
その陽性反応を示す人は、50代が最も多く、次いで60代、40代となっていますから、発症まである程度の年数がかかるのか、それともいろんな金属に触れる機会が人生の長さとともに増えるためなのか定かではありません。
陽性反応を示した金属はニッケルが最も多く、亜鉛、パラジウムがこれに続いています。
奇妙なことにこれらの金属は健康保険で使われる歯科材料が多数含まれまれています。
アクセサリーなどと違って簡単に身体から外せない上に、風呂の中のヘヤピンがあっという間にサビる事からおわかりのように体温という温度、唾液という水分が金属をサビさせ、金属イオンを放出します。
皮膚科で金属アレルギーのことをDental Metal Eruption(DME)歯科金属疹と呼ぶことがあるくらいですから、歯科治療と金属アレルギーは無関係ではありません。
しかし全てが歯科治療から起こるともかぎりませんのでご注意ください。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)は30%の確率で金属アレルギーでも起きると言われていますが、金属より病巣感染の確率の方が高く、まず根の中や周囲の感染(根尖病巣など)の病巣感染を疑うこととされています。
私はだいじょうぶ?
ご自分が現在金属アレルギーを持っているかどうか調べるには、パッチテストを受けるのが正確です。
このテストは歯科材料などを数日から二週間位皮膚に貼り付け、その皮膚のアレルギー反応を確認するテストです。
正確性ではこのテストに譲りますが、簡便には次の項目に該当する方は、体質的に金属アレルギー傾向があると疑ってみていいでしょう。
・皮膚科等で長期間治療しているが、難治の皮膚疾患が治らない。
・時計の金属ベルトやピアス、指輪やネックレスなどが皮膚と接触した場所が赤くなったり、かぶれや湿疹のようなものができる。
・歯科治療を行った後に発症している
ではこうした項目に問題がない場合は、金属アレルギーがないと判断していいのでしょうか。実はそう簡単ではありません。
金属アレルギーはⅣ型アレルギーで遅延型とも呼ばれ、T細胞やマクロファージなどの細胞が関与するため症状が遅れて出ます。
その人の体質やイオン化して溶け出す量や期間によって発症の有無や程度、怖いことに潜伏期間のような発症時期までが変わるのです。
また、女性の更年期などがきっかけになって、今まで問題がなくとも同じ金属でアレルギーが発症することもあります。
今は平気でも将来はわからないのです。
その上、指輪やピアスと違って、取り外すことがないものですから、歯科治療での材料の選択は慎重にするにこしたことはありません。
金属アレルギーを避けるには?
いくつかの対処法をお話しします。
・パッチテストを行わない場合は、保険の銀歯を避ける
上のグラフは金属アレルギーを起こしやすい代表的な金属のグラフです。
銀歯には歯科で用いる金属のン下で5番目にアレルギーを起こす頻度が高いパラジウム、銅が含まれていますので、原因金属が不明の場合は銀歯を避けた方が無難です。
・金属がイオン化して溶ける(腐食する)ことで金属アレルギーが起きることから、金属アレルギーを避けるには、溶け(腐食し)にくい金属を使うこと。
・一般的な金合金でなく、アレルギーを起こしやすい金属が混ざっていない特殊な金合金を使う。
・金属のイオン化を避けるため、口の中に色々な違う金属を使わない。できれば一種類の金属が望ましい。
種類の異なる金属が同じ口の中にあると、金属の電位差から金属イオンが口の中に溶けだしやすくなるためです。
残念ながら水銀は以前使われていて一定の年齢以上の方の口の中にまだ入っている可能性があるアマルガムに含まれており、ニッケルやコバルト、パラジウム、クロム、銅など大半の金属が保険治療で使われています。
これらの金属の合計、実に91%が保険の材料なのです。
・セラミックなど金属を使わない治療にする。
具体的には、バイオメタル(アレルギーを起こしやすい金属を含まない金属)、スマートフィット(純チタンの削り出し)などのチタン、さらに、金属でないため金属アレルギーとは無縁のセラミック(陶器)、強化プラスチックなどの材料が考えられます。
最近は金属アレルギーだけでなく審美上から、自分の歯と調和し自然で美しい、セラミックなどの材料が好まれる傾向にあります。
一方、歯科治療では金属を使わない治療が症例上困難な場合があったり、治療上別の観点からの金属の良さもあります。
セラミック単体でなく、アレルギーを起こさない金属(場合により特殊な金合金やチタンなど)やそうした金属とセラミックとの併用も一つの解決策です。
アレルギー体質の人やアレルギーに不安のある方、またご質問やご相談はご遠慮なくいつでもお気軽にお申し出下さい。
治療法や材料について長所短所をお話ししますので、あなたにとって最適な治療法を決めていきましょう。
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