抜歯した後の治療は何が良いのか
抜歯した後
三鷹駅から徒歩1分の歯医者、高岡歯科医院です。
歯を失うことは寂しく悲しいこと。この被害を最小限に、そして機能を回復する手段をいくつかの選択肢を交えてお話しします。あなたにとって最善の方法を見つけてください。
以前は印刷をして来院された患者さまに手渡ししておりましたが、時代に合わせてホームページでお読みいただけるようにしました。
目次
最善の選択肢はあなたの中に
むし歯や歯周病で歯をなくされた方から、「ああ、歯をなくすと不便だ!」、「みっともない!」、「かみにくい!」というお話しを伺います。そして直接はおっしゃいませんが、そういう方は私の経験上「この先どうなっていくのだろう?」をいう不安を抱えておられることが多いのです。
さらにその深層心理の中には、「自分に自信が持てなくなった」という自信喪失があることもよくあります。歯がそろっていた頃には考えもしていなかった不安です。
これは外見的や機能的な問題と伴に、本人にとって実は深刻なことです。状況によっては食べる意欲や、生活や社会的な意欲の喪失につながることもあります。何といっても「かめない」、「おいしくない」は楽しみのない毎日ですから、憂鬱で元気もでないことにつながってしまします。
多くの人々がそういう状態のまま、もんもんとしていらっしゃいます。なにか理由をつけて、一日延ばしにしている方もいらっしゃいます。ですがそこで一大決心をして、「こんな人生を送るために、今まで苦労してきたんじゃない、食事と人生を楽しもう!」そう決心した方が治療にお見えになられます。そんな時、私はあなたの不満を解消するために、歯科医の気持ちに火がつきます。「よし!なんとかしよう!」と。
私も小さい頃から歯医者さんによく通いました。むし歯が多かったのです。中学の時にはそのむし歯が原因で歯を一本失ってしまいました。その時の歯を抜いた後のジンジンする痛みや、出血を今でも覚えています。
そのため中学生で入れ歯を体験し、その後ブリッジになりました。歯科医となった今でも、その残念さを忘れたことはありません。これが歯科医としての私の原点です。
歯を失ったのは前歯でしたから、最初に入れ歯を入れた時は、針金が見えるし、いつも舌が触ってうっとおしく、喋りにくかった記憶があります。食べるたびにガクガクする、食べカスもつまる、時折外れそうになってあわてて戻す、そんな毎日でした。不便きわまりないのです。
これが思春期の人間の前歯ですから、いくら男といってもつらいものでした。これが嫌でその後ブリッジにしたのですが、抜いた歯の両隣を削る羽目になりました。当時はまだインプラントが開発されていなかったのでそれしか選択肢がありませんでした。
昔はブリッジの精度が悪く、削ったためにそこがまたむし歯になってまたさらに削ってやり直しになりました。今でもまだまだ精度の甘いブリッジなどを毎日のように患者さんのお口の中に見つけることがあります。時間と手間をかければもっとピッタリしたものが現在ではつくることができるのですが…。
私のように歯をなくした場合、現在ではいろいろな選択肢があります。
歯をなくされた方から「先生、インプラントと入れ歯とどっちがいいの?」、「最先端技術だからやっぱりインプラント?」とよく聞かれます。あなたはどちらだと思われますか?
実はその答えはあなたの中にあります。これは物の優劣の話ではなくて、何があなたにとって最適かということです。人によって、症例によって最適なものが違うのです。
世間一般的にインプラントを第一に考える傾向にありますが、それは間違いです。最先端の技術であるインプラントにもいいことばかりではありません。ブリッジがいいことも、入れ歯がいいこともあるのです。インプラントがいいことももちろんあります。
このコラムは私たちの歯科医院にお通いの患者さんだけでなく、もっと広く歯で困っている方々に向けて書いています。もしあなたが歯をなくされたのなら、このコラムからあなたが選択できる方法とそれぞれの長所や短所をお知りになることができるでしょう。
そして、あなたにとって何が最適なのか、あなたのかかりつけの歯医者さんと納得がいくまでご相談していく上で、予備知識を持ってじっくりと相談できることでしょう。
私が中学時代に歯を失ったことは前にお話しました。私の心の中では無念と思っていても、実は普段はそのことを忘れて生活しています。気付くとその記憶はよみがえるけど、いつもは忘れられる。この「普段そのことを意識させられない」状態をでいられることが大きな幸せなのだと思います。
そこに不便や不快がないからです。歯をよみがえらせることはできなくとも、この意識しないことが手に入ればあなたは幸せな生活を送ることができるのです。それを手に入れるために、それをこれからお話していきたいと思います。
あなたの不安と不満
入れ歯の代表的な不満は、異物感が嫌、喋りにくい、歯に引っ掛ける針金が見えるのが嫌、入れ歯が当って痛い、入れているだけで苦痛、すぐ外れてしまう、入れ歯を入れるということ自体が年寄り臭くて嫌…
ブリッジの不満は、なくした場所の両隣の歯を削りたくない、ブリッジを支える歯が悪くなる…
インプラントの不満は、手術が怖い、痛いのじゃないか?長持ちするのか?インプラントがダメになったらどうなるの?…
こういったお声をよく耳にします。ただでさえ歯をなくして落ち込んでいるのに、されにその治療でストレスが溜まるのはガマンならないことです。そしていくつもある治療法の中で、いったいどれが自分にふさわしいのか?
治療法の比較ができないし、その長所や短所がよくわからない。
その治療から何を手に入れることができて、どんな問題が付随するのか?長い間快適にいられるのか?将来どうなるのか?あなたには、このようなたくさんの不安と不満があることでしょう。
こんな状態で何かを決断することを迫られれば、誰でも迷いや困惑があって当然です。
よくわからないために周りの人の噂や、歯医者さんの考え方で決まってしまってはいけません。
あなたの周りの人とあなたのお口の中や置かれた状況、希望する内容までみんな違います。あなたのことはあなたにしかわからないし、あなたにしか決められないのです。
そのためには、あなたがもっと多く情報と知識を得た上で、専門家のアドバイスを受けながら決められる環境が必要だと思います。それをこれからお話ししていきたいと思います。
あなたの誤解と真実
世間一般に話されている常識みたいな話しには誤解があることがあります。ここでそのいくつかをご紹介いたしましょう。
部分入れ歯を使うと、入れ歯を支える歯が悪くなる
よく「針金をかけた歯からダメになる」といわれるのは、どうしてでしょうか。
部分入れ歯は、残った歯に針金などを引っ掛けて入れ歯を安定させるものです。
その点総入れ歯より有利ですが、引っ掛けることがその歯への負担になることは否めません。噛んだり喋ったりして口が動く度に、入れ歯を介してその歯を揺することにつながるからです。
さらに入れ歯の構造上、針金があるために食べカスが貯まりやすく、清掃が悪くなりやすいためにむし歯や歯周病にかかりやすくなります。これらが、そう世間でいわれている原因です。
でもすべての入れ歯がそうなるのではありません。
残った歯の実力をしっかり評価すること、上下の噛み合わせなどを十分に考慮に入れることなど、ちゃんとした入れ歯の設計ができれば、そうした問題を最小限に抑えて長く使っていただける入れ歯も可能です。
10人歯科医がいれば、ほとんど同じ設計はないくらい設計は違います。歯科医に今だけでなく、将来を見据える目と経験が問われているのです。
普段の丁寧な清掃と適切な設計によって、歯を悪くすることもなく、快適で長持ちする入れ歯も可能なのです。
総入れ歯は入れ歯を支える歯が一本もないのだから、使うと外れるのはある程度しようがない
上の総入れ歯は重力に逆らってへばりついています。吸盤が吸い付く原理でへばりついています。何かの拍子に力がかかると、その吸着が解消して落ちるのは当然の理屈です。
下の総入れ歯も口の中に置いてあるだけです。上の総入れ歯よりあごの土手に接する面積が小さく、吸盤の力も弱いのです。さらに内側からは舌、外側からは頬、両方向から入れ歯を動かします。上下の入れ歯には、口を開ける、喋る、食べる、かみしめると、角度や強さの違ういろいろな力がかかるのです。
喋る一つとっても「あ、い、う、え、お」みんな口の動きが違い、入れ歯にかかる力も場所も変わるのです。これじゃ、外れないほうがおかしいですね。
いえいえ、そんなことはありません。一度きりの簡単な方法で入れ歯の歯型を取るからそうなるのです。時間と手間をかければ、外れないしっかりとした入れ歯を手に入れることもできますからご安心下さい。もちろん、テレビCMに出てくる入れ歯の安定剤は必要ありません。
私の父は現在総入れ歯です。私が歯科大学生の時に最後の二本を失って、総入れ歯になりました。残念でした、私が一人前になるのが遅すぎました。その時、いつか立派な総入れ歯を作ってあげようと決めました。
しかし歯科医になってすぐに父の総入れ歯をつくることはできませんでした。総入れ歯は参考になる歯が一本もない状態ですから、どうとでも作れる自由度がある反面、どうとでもできるから、でき上がる入れ歯の違いが非常に大きいのです。かなり入れ歯の腕をあげないとちゃんとしたものが作れないのです。
作っても入れてもらえないのじゃダメですから、腕を磨く間私は手を出しませんでした。
十年かかりました。
やっと入れ歯に自信ができた時に、念願かなって精一杯の総入れ歯を作らせて貰いました。その時の入れ歯でリンゴを丸かじりしたり、硬い煎餅をかじって、「オッ」と父が驚きながら微笑んだ顔は忘れられません。今でもその入れ歯を使い続けてくれています。
歯がなくなりあごが痩せるから、総入れ歯になったら口元が老けてもしようがない
歯を磨く習慣が十分に定着していなかった時代には、むし歯で歯を失うことが多かったのですが、現在では歯周病が最大の原因です。歯周病でなくした歯が植わっていたあごの骨は、非常に痩せていることが多いのです。
また、人は年々歯を少しずつ失っていきます。昔から齢の字に歯が使われているのもそうした理由でしょう。そして歯が一本もなくなると最後に総入れ歯になります。
この総入れ歯の歴史は古く、古代エジプト時代からの出土品もあります。日本ではその昔に、かなり身分の高かった人が使っていたのであろうといわれている木製の総入れ歯が今も残っています。
最近の入れ歯はプラスチックでできており、歯肉と人工歯が天然のものと似せて作れるようになりました。当時より外見上では美しく、自然な入れ歯を作ることができるようになりました。現在は材質的には木製時代より良くなったものの、総入れ歯にはまだ問題があります。
それは総入れ歯特有の痩せて貧相に見える口元です。口元のシワやへしゃげた唇がそれに拍車をかけます。歯医者さんがそれに気付いていないのではないのです。気付いているけど、これがなかなか難しいのです。
これは、歯を失うと同時にあごの骨も失っていることと、歯を失う度に噛み合わせが狂って、下のあごが後ろにズレているために、カッコよく入れ歯を作ると入れ歯がすぐ外れたり、噛めないからです。口元の貧しさには理由があるのです。
ではどうしようもないのかと言うと、いやいや手はあります。時間と手間をかければ、個人差はあるもののその回復も可能です。詳しくは、別冊「入れ歯と歩む、豊かな人生」をお読みいただくとして、「新しい入れ歯で、五年、いや十年若返ったみたい!」と嬉しいお声を聞くこともありました。あなたにも喜んでいただきたいと思います。
インプラントの誤解と真実
インプラントは最先端技術だから、入れ歯よりは優れている
確かに入れ歯よりインプラントが優れている面もあります。異物感やかめる能力などです。
残った歯にも負担をかけないことも有利です。ただ、すべてがそうはいかないのが臨床です。
母の治療をした時のことです。下の奥歯を私が歯科医になる前にすでになくしていました。私の医院までの距離と父を一人にすることを考えて、実家近くの大学の同級生に治療を頼みました。入れ歯を嫌がる母のことを考えてのことでしょうが、無理をしたブリッジを入れたために歯が割れてその歯を失うことになりました。
急遽上京してもらい、母の口の中の治療を全部やり直させてもらいました。
その時の選択肢として、インプラントと入れ歯が浮かびました。インプラントができるだけの骨もあります。迷いました。
インプラントの方がかめるし異物感がないから母は幸せだろうと思う気持ちと、これからさらに年老いていく母にインプラントをした場合のリスクです。小さい頃から母をみてますから、母の性格もよく知っています。物事はきちっとするし、身の回りもちゃんと片付ける人です。
そんな母でも、歳と供に眼が弱くなって細かいことが見にくく、また物事が面倒になってきたのです。これからさらに老いる母に、ちゃんと歯とインプラントを丁寧に磨くことの負担と、はたしてそれが継続できるのかと考えました。
入れ歯なら将来何かが起きても外すことができますから、修理をしたりその時の事情に合わせて改変することができます。
一方でインプラントでは原則的には取り外しができないし、磨き残しは天敵です。老年まであまり余裕のない母のことを考えて母と相談した結果、母の治療には入れ歯を選択しました。時間をかけてしっかりとした入れ歯を入れさせて貰いました。
母が実家近くの歯医者さんに別なことで行った時のことです。その入れ歯を「参考に写真をとらせて欲しい」といわれたそうです。これも母からすると親ばかでしょう、そのことを自慢げに電話をくれました。これも親孝行だと、こちらも嬉しくなりました。
現在の母をみていると、その当時の判断は間違っていなかったと思います。母も同じ意見です。「入れ歯だからかめなかったことは一度もなかったし、多少入れ心地が劣るといってもなれてしまえばこれでよかった」と母は今も言っています。
インプラントは優れたものです。しかし、それを誰が受け、どのような時に受けるのかも含めて、いろいろな角度から検討する必要があると思います。
『あなたにとって何が幸せなのか』なのです。
しかし高齢に近い人はインプラントをするべきでないといっているのではありません。
あなたにとって優先するものがインプラントでしかかなえられないなら、それでいいのではないでしょうか。患者さん歯医者さんお互いにゴールを最初に決めてはいけません。
インプラントや入れ歯は手段です。ゴールはあなたが先々でも幸せと感じられることです。
あなたの歯医者さんは、残った歯の能力、歯をなくした場所や理由、将来の予測など色々な角度から方針を考えます。もちろんあなたの希望をかなえるために。ここが歯医者さんの経験と腕の見せどころです。
そのためには、インプラントだけでなく、入れ歯やブリッジ、移植など他の選択肢も含めた全てに精通している必要があります。でなければ、正確にあなたに何が適切なのかわからないのです。
さらに一部だけが得意であれば、人は得てしてそっちで解決しようとする傾向があります。
本来あなた中心で考えるべきものを歯医者さんの得意や都合で決まってはいけません。
何が得意なのかなどは外見からわかりませんから、選択肢を平等に比較して、説明して下さる歯医者さんがいいでしょう。
インプラントは手術が必要だから、痛い
インプラント治療には手術が必要なので、尻込みしたくなりますね。そのお気持わかります。手術は誰だって避けたいし、恐いですものね。でもご安心ください。
実際は、いまあなたが想像されているよりもっともっと楽です。私たちの歯科医院では、東洋医学も取り入れていますから、治療中はまったく痛くありません。そして治療の後も驚くほど楽にできます。
ここで色々お話しするより、実際に治療をお受けになられた方の体験談をお読みになられるといいでしょう。別冊「第三の歯、インプラント」に少しだけ掲載させていただきました。
手術のことも、治療後のかめる喜びも生の声に触れることができます。
意外でしょうが、そこで患者さまがお書きになられたように「案ずるより生むが安し」という言葉が似合います。ご安心ください、私たちがあなたをフルにサポートします。
治ったらなにを食べようかと考えていれば、簡単にすんでしまいます。
なくした歯の治療は何がいいの?
歯を亡くされた方の心情は前にお話ししました。それに噛めない、喋りにくい、などの機能的な不満、カッコウが悪いなどの審美的な不満も積もります。
このような不満の解決法にはいくつかの解決策があるのですが、その選択肢の詳しい特徴、使い勝手やなにがあなたに最適なのかなど、考えることは山ほどあるのに、小耳にはさんだ話しやイメージだけで決めてしまうような人がいらっしゃいます。
また、短所ばかり見てしまうとその裏の長所が見えなくなることがあります。
例えば、入れ歯はセメントで接着していないので多少のガタつきはあるものです。
これは短所に見えますね。しかしこの接着していないことは、取り外しできるために残った歯の掃除はしやすく、また修理などができます。これは利点でもあります。
その治療の欠点は長所の裏返しでもあるのです。このように、考えることはたくさんあります。
残念ながらこのページを読んだだけでは、厳密な意味では、あなたに最適な方法が何なのかはわからないかもしれません。個人個人お口の状態も違えば、望まれるものが違うからです。そして実際の臨床は、小さな冊子の中に入るほど簡単ではないからです。ですがたくさんの情報を元に予備知識をお持ちになり、それを元に、かかりつけの歯医者さんとご相談できればと考えてこの記事を書きました。
歯を亡くされた時、あなたは何ができて、どんなものが手に入るのでしょうか。
あなたの選択肢やその特徴、長所や短所などをみてみましょう。歯を失った場所や原因、他の歯の状態などにもよって選択できるものに違いがでることがありますが、ここは一般論としてお話しいたします。
亡くされた歯への対応法は、入れ歯、ブリッジ、インプラント、自家歯牙移植、それに何もしないこと、があります。驚かれるかもしれませんが、状況によっては、何もしないことも一つの選択肢です。お体や残った歯などのお口の状況、ご希望内容やそれぞれの選択肢の長所・短所などから、現状のままをお勧めすることも一部では実際にあります。
また歯牙移植は対象になる歯の問題から症例的にはあまり多くありません。
しかし、入れ歯はオールマイティーです。年齢や骨の状態、ほぼどんな状態の方でも受けられます。
一方で、ブリッジは歯を亡くされた場所の前後に歯がなくては受けられませんし、インプラントもそれを支える骨が十分になくては受けられません。
このように、ブリッジとインプラントにはある一定条件が揃わないと受けられない制約があるのです。今度は選択肢別にそれぞれの特徴をみてみましょう。
なくした歯の治療~入れ歯~
入れ歯には、まだ歯が残っている方の部分入れ歯と、まったく歯が残っていらっしゃらない総入れ歯があります。
部分入れ歯にもいくつか種類がありますが、基本的には入れ歯の安定を残った歯に依存しています。ですから残った歯の能力や状態によって、入れ歯の形などのデザイン、安定、ひいては噛める能力などに違いがでてきます。
同じ状況は二つとしてありませんから、すべての方の入れ歯は違います。他の人がいいから自分もいいとは限らないのです。この改善には経験と知識がものをいうために、歯科医の腕の見せ所でもあります。
入れ歯が適応症の方の多くは、歯をたくさん亡くされた方が一般的です。そのために歯を少しずつ亡くす度に、あごの位置のズレや噛み合わせのズレなどが起こっていることが多くあります。
噛み合わせが低くなって、口元がへしゃげたような方も大勢いらっしゃいます。こうした長年の蓄積したズレの解消には、お互いの時間と根気が必要です。ズレが大きいままだと具合のいい入れ歯が入らないからです。しかし患者さまの求めていらっしゃるものによっては、このズレを残したまま入れ歯を作ることができますし、一般的にはそういう治療がほとんどです。
今度は、入れ歯と他の選択肢との比較をしてみましょう。
入れ歯には治療側からすれば自由度が高いという利点があります。ただしこの自由度の高さがどうとでも作れることと同義語となり、その結果がお互いの入れ歯治療の難しさにもなっています。
しかしこれを利点として生かすことができれば、痩せたあごや歯肉の回復による口元の改善、外見上最も相応しい位置への人工歯の配置などが可能になります。
さらに取り外しができることが、外して歯と口の清掃が簡単にでき、将来の不測の事態に対する修理や修正が可能になることが多い点で他の選択肢より有利です。
前にお話ししましたが、この有利さと高齢であること、それが私が母の治療に入れ歯を選択した理由です。
他の選択肢より劣る点は、第一は異物感や喋りにくさがあることです。しかしこの感覚にはかなりの個人差があって、まったく平気な方もいらっしゃいます。それらは、大半の方は一ヶ月位で慣れて解消していきます。
次は部分入れ歯ではほとんどみられませんが、総入れ歯でよく見られる「外れやすい」や「噛めない」「痛い」などの不満です。これも精度の高いちゃんとした入れ歯をお作りなれば、まったく問題はなくなりますからご安心下さい。
最後は部分入れ歯特有の問題です。前の章の「部分入れ歯を使うと、入れ歯を支える歯が悪くなる」でお話ししましたが、入れ歯を支える歯に負担がかかることがあります。
ブリッジの歯のない両脇の歯に負担がかかることと似ています。インプラントにはまったくこの問題がなく、この点においてはインプラントに軍配が上がります。
ここは部分入れ歯の宿命ともいえる部分ですが、症例にもよりますがしっかりとした設計をすれば大きな問題とはなりませんのでご安心下さい。
なくした歯の治療~ブリッジ~
ブリッジとは、歯を失った場所の両隣の歯を削って、歯がないところを含めた全体を人工の歯でつなぐ治療法です。他の選択肢に比べて比較的治療が簡単で、多くの治療がなされています。
現在では、人工の歯を歯と同じような色調の材料で作ることができます。おかげで、金属が表面に出て、見た目に見苦しいこともなくなりました。
最近になって金属をまったく使わない、セラミックだけでできたブリッジも技術の進歩により可能になりました。
ブリッジの長所は、先ほどお話ししたように治療が比較的簡単なことです。また、入れ歯のように取り外しはせず、セメントで歯に接着しますので、ガタつかず何でも噛めます。
それに歯と同じくらいの大きさですから、入れ歯のような異物感がほとんどありません。こうした点が多くの人に支持される理由です。
一方で弱点もあります。それは、両隣の前後の歯を削らなくてはならない点です。
歯はできるだけ削らない方が長持ちします。しかしすでに前後の歯に人工の歯が入っている場合は、その人工の歯を作り直すだけですから弱点にはなりません。
またブリッジの支える歯と歯がない場所が全部つながっているために、歯がない場所に加わる噛む力は、前後の歯が負担を肩代わりします。前後の歯は、自分と噛み合う歯と一人前の仕事をした上にさらにその負担をします。
これはその歯には迷惑な話で、長年それを続けると時にはその歯が割れたり、歯周病やむし歯という形で悲鳴をあげることもあります。これもブリッジの弱点です。
そして、ブリッジの構造上の弱点もあります。川の橋げたには、上流からの浮遊物が引っかかっていることありますね。それと同じように、ブリッジを支える歯の付け根に、プラークや食べカスなどが溜まりやすくなります。橋は英語でブリッジですから。
これはむし歯や歯周病の原因となりますので、歯間ブラシを使った丁寧な清掃が必要です。
なくした歯の治療~インプラント~
歯を失った場合の治療の中で、最先端の治療がインプラントです。しかし意外にその歴史は古く、開発されたのは今から25年以上前になります。
偶然にチタンという金属が骨とくっつくことがわかって、抜けた歯の代用として歯科治療に使われるようになりました。現在インプラントに使われているのもチタンですが、その機能や形態などたくさんの改良がなされてきています。
現在世界中で日常的に行われており、その成功率も90%前後にまでになってきました。
また以前は骨の少ない方はインプラント治療を受けることができませんでしたが、現在では骨が足りない症例の骨を増やす治療など新しい技術で治療が可能となり、入れ歯でない食生活が可能になっています。
また、手術が1回ですむ方法やインプラント治療後の治癒待機期間の短縮などいろいろな技術も開発されています。
このように日々進化を続けるインプラントですが、その背景には日常の生活の質を向上させたい患者さんの要望があります。それに答え続けられていることが、インプラントが最先端であり続け、多くの方々の支持を受けている理由でしょう。
最近では、傷んだ天然の歯を治療して保存する場合とその耐用年数に変わりがなかったという報告まであり、インプラントへの期待感が高まっています。詳しくは後でお話ししますが、他の選択肢にできないことがあることもインプラントの強みです。
インプラントは歯を失った場所の骨の中に、チタン製のスクリューのような棒を入れて歯の根っこの代わりをさせるものです。さらにその上に人工の歯をセメントなどで接着することで、天然の歯と同じように噛むことができます。こうしたインプラントの基礎的なお話しは別冊「第三の歯、インプラント」をご覧ください。
インプラントの利点は、この「噛める」という能力の高さです。骨に入っていてびくともしませんから、硬いものも難なく噛み砕くことができます。さらに、歯が元々あった場所に歯と同じような人工の歯が入りますので、入れ歯のような異物感がまったくありません。
またブリッジのように前後の歯を削る必要がないことも重要な利点です。ブリッジを支える歯に負担がかかるのも防ぐことができます。入れ歯のような針金もなく、見た目にもすっきりしてキレイなことも見逃せません。
実際にお受けになられた患者さんの感想でも、中には「歯が亡くなったことを忘れるようだ」とおっしゃった方もいらっしゃいました。この快適さがインプラントの強みです。
ここまでいいこと続きのインプラントですが、無敵ではありません。インプラントにも弱点があります。まずは、あなたの最も気になることであろう、手術が必要な点です。でも前の章にもお話ししたように、意外とお考えになられているより楽なものです。実際にお受けになられた方の感想でも、ほぼ全員の方がそうおっしゃっています。
手術の内容にもよりますが、時には多少腫れたりすることがありますが、痛みに関しては翌日痛いと言われたことがないほど、ほとんどコントロールすることができます。
手術中はもちろん無痛ですし、その後もあまり痛むことはありません。私は大の痛みに弱い人間で、痛みのコントロールには人一倍気を使っています。東洋医学を取り入れているのもその一つです。実際の痛みは、歯を抜く時と大きな違いがない程度です。
この事実は実際にお受けにならないとなかなかご理解いただけないかも知れません。
本数が多くて二回にわけて手術をすることがあります。一回目の手術の後に、「二回目は結構です」と言われたことが一度もないことが、この事実を証明していると考えています。
インプラントは天然の歯より細菌感染に弱いことも弱点の一つです。
天然の歯も細菌感染によって歯周病(歯槽膿漏)になるのですから、インプラントの場所は丁寧なお掃除が大切です。しかし2倍も掃除する必要はなく、ちょっと気を配っていただければそれで十分です。
先ほどお話しした最近の報告では、傷んだ歯の治療後とインプラントの寿命に差がなかった結果でしたが、私は天然の歯がむし歯や歯周病でなくなっていくことを考えると、そこまで安心はできないと考えています。何といっても天然の歯はあなたの体から生えてきたものです。私には、人工的なインプラントがそれとまったく同じとは考えられないのです。
インプラントの最後の弱点は、その費用でしょう。手術から最後の人工の歯までを含むと、およそ¥400,000~¥500,000前後の費用がかかります。これを高いと思うか、安いと思うかは、いまのお困りの程度や、将来への不安、価値観などから決まることでしょうが、決して安い金額ではありません。
しかし一人の患者さまの口の中を長年拝見し経過を魅させていただいている立場から申すと、現代の科学と医療をもってしても作り出すことができない歯の価値は金額で表すことができないと考えています。こうした本来の歯の価値からすると、私は決して高いものではないと考えています。
歯の価値自体がお金では計りようもないものですが、仮に前後3本つながったブリッジと比較してもインプラント単独と費用的にそんな大きな差がありません。
前後の歯を削らないですむことや、その歯の寿命の延長を考えれば、逆に得策だと思うのです。
治療は目的ではなく、あなたの人生を豊かにするための「手段」です
ここまで入れ歯やブリッジ、インプラントなど、歯をなくされた後の代表的な選択肢について比較を交えながらみてきました。
しかし、実際の臨床は教科書通りにはいきません。人それぞれ、お口も事情もみんな違っていて、同じ状況が二つとないからです。それにあなたのご希望や治療期間、経済的なことなど考慮することはたくさんあります。
あまり多くのお話しをすると、あなたが情報の渦の中で溺れてしまうかもしれません。かえって迷うかもしれません。
今回は判断する材料になることを期待して、簡単に読めて、複雑な選択肢の比較を中心にお話ししたつもりですが、多少はご理解いただけたでしょうか。
冒頭にもお話ししましたが、「何がいいのではなく、何がいまのあなたにとって最適なのか」です。それぞれに利点と弱点があります。弱点がまったくないのは、あなたの歯だけです。決して、治療の選択を目的にしないで下さい。これは手段です。
目的は、あなたの歯を一年でも一日でも長持ちさせて、快適な生活を送ることです。
残ったあなたの歯を守るために、どの選択をするか、そういう視点で考えてください。
そして今だけでの事情でなく、将来も考えに入れてください。
そうすれば、おのずとあなたにとって一番いい選択肢が見えてくると思います。
この世に100%も完璧も存在しません。後悔のない人生をお送りいただくためにも、納得がいくまでかかりつけのあなたの歯医者さんとゆっくりご相談ください。
そのために「相談に乗ってください」とお電話してみてください。
あなたの歯医者さんは、喜んでご予約くださることでしょう。
快適で悔いのない人生をお送りになられることをお祈りしております。
こちらの記事もご覧ください。
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