歯周病治療とは
目次
歯周病治療とは
1)正確な病状判断が第一
歯周病にも歯肉炎や軽度歯周病のように比較的簡単に完治するものから、重度歯周病のように完治が困難で症状の改善や進行コントロールに留まらざるを得ないものまで幅広くあります。さらに同じ人の口の中の特定の歯だけ状況が悪い場合も多々あり、歯周病と闘うには十分な事前検査の元に現状を判断し、人それぞれ異なる個別の治療計画を立案する必要があります。 また歯周病は一時だけの治療で済む病気ではないため、長い期間を患者さんと一緒に目標に向かって歩み続けることが大切です。根本原因であるプラークの治療サイドによる除去と同時に患者さんサイドの日常のお手入れでプラークがつきにくくする二人三脚が今後全ての治療の基本となり、お互いの情熱の維持が大切になります。
2)歯周病菌を少なくする
歯周病は細菌による感染症ですから、歯周病治療の基本の第一は口の中の細菌数の減少です。歯石と呼ばれる歯の表面にこびりついた石のようなものが歯周病の原因と思われている方がいらっしゃいますが、これは正確にいうと誤りです。その真犯人はプラークやバイオフィルムと呼ばれる細菌の塊です。
細菌は自らを守るために水で流されないように粘ついた物質を作り出し歯や歯周ポケットの表面に糊のようにくっつきます。これが歯垢(プラーク)と呼ばれるもので、1mg(1gの1000分の1)という微量の中に10億個の細菌が含まれており、粘着性が高く水に溶けないためにうがいでは取れず、ガムを噛んだり、りんごを食べても取れないため歯ブラシなどで取り除く必要があります。また歯ブラシで取り切れない歯と歯肉の境目の奥深く入り込んだ部分のプラークは定期的に歯科医院で取り除くことをお勧めいたします。 細菌も人間と同じように適度な温度、水分、栄養が元気の元です。お口の中は体温で温度が高く、水分があり、三度の食事で栄養が豊富と細菌を育てるには最適ともいえる環境です。体温と水分はなくしようがありませんが、栄養となる食べかすはなくすことができますし、プラークを除去するためにも歯周病予防と治療に歯磨きが欠かせないことがご理解いただけると思います。これが歯周病予防や治療に歯磨きなどの清掃を重視する理由です。
このプラークは24時間以内であれば歯ブラシなどで取り除くことができますが、それ以降は段々硬くなり石のようになって歯や根の表面に強固にこびりつくと歯石と呼ばれます。歯石はプラークが石灰化して硬くなったものですから、確かに身体にいいものではありませんが、その病原性はプラーク自体よりずっと低いものです。歯石は軽石のように表面が粗雑で無数の穴が開いており細菌の格好の住みかとなることと、プラークが付着しやすい形状であることの方が大きな問題なのです。細菌にとって免疫などの外敵から身を守る砦でもあります。これが歯石除去が大切な理由です。 歯磨きなどの清掃が不十分になったり免疫の力が低下すると病気を抑える力が弱くなり、歯周病がどんどん進行していくことになります。 細菌数を減らすことが全ての治療の基礎になるため、毎日の歯磨きや歯科医院での定期的な歯石除去、そして細菌が住みにくい環境を維持するメインテナンスが重要になってきます。
3)歯にかかる負担を少なくする
日常の食事のときに噛むことで歯にかかる力は健康な一本の歯に最大で数十キロもの力になります。 ですからすごく硬いものでも噛み千切ることができるのです。 それでも歯と歯を支える組織はそれに十分耐えられる能力を本来は持っています。人はそう設計されているのです。 いくら年々衰えていくといっても、人の体や歯は通常に食べることだけで歯周病になったり無くなっていく設計にはなっていません。
しかし通常でない設計外の病的・暴力的な力が、またはそう強力な力でなくとも休む暇なく頻繁に加わるために病気になるのです。歯も失うのです。その強い力の最たるものが歯ぎしりです。 一本の歯に先ほどお話した最大強さの数倍もの力がその上に頻繁に加わります。 だから歯ぎしりではあんなすごい音が出るのです。 一度思いっ切り歯をこすり合わせてみてください。絶対にあの音は出せません。脳が歯とそれを支える組織を守ろうと無意識にブレーキをかけるからです。しかし睡眠中人の脳は休憩モードに入っているため、ブレーキがかからずあのギリギリというすごい音が出せるのです。
この結果、歯の硬さが歯を支える組織より弱ければ歯が極端に磨り減り、逆に組織が弱ければ力に耐え切れずに歯を支える歯肉に炎症が起こり歯周病となって骨が段々溶けてきます。骨が溶け支えがなくなった歯はぐらつき、最後には自然と抜けてきます。 これが強い力による歯周病の姿です。 ただここで注意していただきたいのは、歯周病を起こすのは歯ぎしりだけではないことです。歯の食いしばりや噛みしめ癖でも起きます。そして同じことが入れ歯を支える歯や、ブリッジを支える歯に起こることがあります。支えになる歯にかかる強い力が歯周病の原因です。 こうした強すぎる力をかけないようにする方法は、日中の歯同志の接触を意識して減らす方法、就寝時間帯の強い力から歯を守る方法、強い力を分散させるために入れ歯やブリッジでなくインプラントにする方法などがあります。
4)口の中の除菌療法
プラークと一緒に通常の歯石を取るだけでは改善しない難治性の歯周病もあり、当院では抗生物質を用いた除菌療法を行って効果を上げています。歯と歯肉の間にプラークが沈着し、歯周病原因菌の住みかとなっているものを除去・洗浄したうえで原因菌の除菌を行って歯周病を改善する新しい治療法です。
今までの消毒法では念入りに消毒しても、細菌の繁殖力は旺盛で10分もすればお口の中の細菌数は元通りに戻ってしまいます。しかしこの除菌法は毎日就寝前に継続して除菌を行いながら薬の服用を併用することで効果が持続します。さらにその効果が持続している間に短期集中的に徹底的に細菌をたたき、またお口の免疫力アップで歯周病と戦うものです。重症の歯周病の症例でもかなりの改善が見られます。痛みの全くない治療ですから、なかなか歯周病が治らない方や、歯周病でお悩みの方はぜひ一度お試し下さい。
5)免疫力を高める方法
免疫力を高める方法
日中の活動時間帯は交感神経が優位になり、睡眠時やリラックス時には副交感神経が優位になります。すなわち消耗と回復を人の身体は繰り返しています。免疫力のアップにはこの回復の時間が必要なため、質の高い睡眠は大切です。
ストレスを避ける
ストレスを感じると副腎皮質からコルチゾールというホルモンがストレスから身を守るために分泌されます。短期的な分泌は問題ありませんが、長期的には脳の海馬の萎縮、免疫系・代謝系・中枢神経系などの機能に影響を及ぼします。コルチゾールは緊張時だけでなく興奮状態でも増加し、昼夜逆転などの生活リズムの崩れでも増加します。免疫力アップにはストレスのコントロールや精神的な休みを設ける、適度な運動をすることが大切です。
腸内環境を良くする
腸内環境は免疫の要と呼ばれています。免疫力は腸内が悪玉菌優勢はマイナスに働き、善玉菌優勢はプラスに働きます。この悪玉菌・善玉菌バランスを適正に保つことが腸内環境を良くし免疫力アップを実現する一つの方法です。この点で近年の研究でロイテリ菌が注目されています。また食物繊維も腸内細菌のバランス維持に有効です。
6)その他の注意点
- 詰め物やかぶせ物と歯の境目に段差があったり隙間があると、歯ブラシの毛先が入らずその中のプラークが取り除けなくなります。歯ブラシで清掃しやすいように、境目がピッタリと適合したものに置き換える必要があります。
- 歯並びが悪いと歯ブラシが届きにくくなるため、プラークが残りやすくなります。
- 口で呼吸すると唾液が蒸発して口の中が乾燥し、プラークの付着や増殖が起こりやすくなります。
- 体の免疫力がプラークの細菌の増殖を日々抑えていますが、ストレスや体調不良などで免疫力が低下すると歯周病が悪化します。
- プラークを増殖させやすい甘い物をたくさん食べたり、不規則な食生活や、間食の回数が多くなるとプラークが増え免疫力が低下します。
- 喫煙は免疫力を司る血液の流れを悪くして歯周病を悪化させます。
- 糖尿病になると免疫力が低下して歯周病が悪化しやすくなります。糖尿病と歯周病は相互関係があるため、歯周病を治療するために糖尿病治療を、糖尿病改善には歯周病治療が必要です。
歯周病を予防するには
デンタルフロス(糸ようじ)使用が歯周病予防に有効
欧米の映画のワンシーンでも見かけることのあるように、欧米ではデンタルフロスの使用が歯ブラシによる歯磨きとならんで極一般的に実行されています。そのデンタルフロスの習慣が糸ようじという商品の登場もあってか、日本でもかなり定着してきました。 歯ブラシだけでは歯と歯の間の清掃は、どんなにがんばっても60%ほどしかできません。その残りの40%を取り去るデンタルフロスは非常に有効です。
さらにこの度ニューヨーク大学歯学部からデンタルフロスの使用で、歯周病の原因となる口の中の悪玉菌を減少させるのに大変有効であるとの報告がありました。歯周病は歯と歯肉との境目から起こる病気です。その原因菌の生息するのは空気にあまり触れない場所、すなわち歯と歯肉との境目にある歯周ポケットが主であって、治療の対象もそこに生息する悪玉菌でした。しかしその場所から離れた歯と歯の間の清掃でも歯周病に有効であることは、口の中全体から絶対的な細菌数を減らすことが大切であると改めて教えてくれます。とかく面倒で避けて通りたくなるデンタルフロスですが、今日からお使いになってみてはいかがでしょうか。
歩いて歯周病予防
一般的に1日10,000歩を歩くことが健康のためによいとされていますが、最近「歩くほど下がる糖尿病のリスク」という論文のサマリーを読みました。要約すると日頃有酸素運動を行っていない肥満の人々の1日の歩数を調べたところ、1日平均3,500歩未満のグループの糖尿病リスクは高く、1日平均10,000歩以上のグループは他のグループよりリスクが29%低くかったとの報告でした。 歯周病を治すために糖尿を治す必要があり、糖尿病を治すには歯周病を治す必要があることが判明した以上、相互関係がある糖尿病に効果があるウォーキングは歯周病にも有利に働く可能性を否定できません。ましてや老化は足からともいいますから、損することはないでしょう。
これを毎日のノルマと思えば気持ちの負担になりますが、一週間の目標と考えれば取り組みやすいと思います。日常動き回る仕事でもない上にジムも退屈で長続きしない運動習慣のない私は季節の匂いと風景を眺めながら歩くことにしています。同じ道でも見方によれば色々と発見はあるものです。糖尿病と歯周病の方々はお試しになってみてはいかがでしょうか。
歯周病には歯科検診とメンテナンスが大切
健康で楽しい食生活を長く維持していくために当院では定期歯科検診とメンテナンスをお勧めしております。治療で機能回復できても病気の前にリセットすることは残念ながらできません。治療を重ねるたびに歯や歯茎に傷がついてしまいます。大掛かりな治療ならなおさらです。そのために病気を早期発見して最小限の治療ですませる目的で定期歯科検診が大切です。さらにもっといいのが病気そのものにならないことです。メンテナンスで普段行き届かないクリーニングをお受けになられて病気とは無縁の日々をお送りいただければと思います。
困った時だけの対応では次第に増悪を繰り返して先程述べた全身性疾患のリスクを高め、また残った歯の本数は先細りになることが経験的にわかっています。当院ではその方の状況に合わせた定期的なメインテナンスのコースを個別にご提案しております。多くの方々がコースに参加され、健康でおいしい生活をお送りくだされることを願っております。 こうした当院の取組みの詳細は「歯の病気になりたくない方へ」をご覧ください。
最後に
多くの方々が歯周病で歯を失っている現状ですが、歯周病は現在不治の病ではなくなりつつあります。歯を失くされた方はご理解いただけると思いますが、歯の存在は食べる楽しみだけでなく活動力や精神面にも関わってきます。 自立とは「自分で食べて動けること」と定義することもできます。 胃瘻では食べる楽しみもなく生きる意欲が減少するといわれており、口からものを食べることは人の尊厳を守ることでもあります。しかし歯をたった1本失うと咀嚼能率が半分に減少し、2~7本失うと3割に、総入れ歯は1/4に減少するという研究結果や、高齢者で歯が1本も残っていない人で入れ歯の具合の悪い人の寿命が短いという統計もあります。 生きているうちは死ねないのですから、自立や尊厳だけでなく快適で豊かな人生を送るためにも今ある歯を歯周病から守っておいしく楽しい生活をお送りください。
体の老化を止められないのと同じく、お口の中も年々変化していきます。しかしそのスピードをコントロールすることはできます。歯周病治療後は完治する場合と、小康状態を維持する場合があります。増悪させないことが大切で、定期的な医療現場でのメインテナンスを欠かすことができません。困った時だけの対応では次第に増悪を繰り返して先程述べた全身性疾患のリスクを高め、また残った歯の本数は先細りになることが経験的にわかっています。 当院ではその方の状況に合わせた定期的なメインテナンスのコースを個別にご提案しております。多くの方々がコースに参加され、健康でおいしい生活をお送りくだされることを願っております。私たちと一緒に歯と上手にお付き合いし続けていただきたいたいと思います。