虫歯になりやすい(歯質が弱い)
気が付くと虫歯になっている、歯磨きしているのに虫歯になる、など虫歯になりやすいのは体質や遺伝なのかと半場諦めていらっしゃいませんか。知り合いの人はさほど熱心に歯磨きしているとは思えないのに虫歯と無縁なのは不公平だと思っておられませんか。甘いものを控えて食後歯磨きをすれば虫歯にならないと考えていませんか。
一昔前とは違って現代は虫歯が科学的に解明されており、こうした誤解を解消するだけでなく、虫歯になりやすいことから脱却することが可能になってきています。
目次
どうして虫歯になりやすいのか
虫歯は虫歯菌の出す酸により歯が溶かされることで発生します。虫歯になりやすい人は口の中の環境が虫歯菌にとって活発に活動しやすい状態であるのです。逆から見ればこの口の中の環境を変えることで虫歯になりにくい人になることができます。
口の中の環境とはどういったものかご紹介いたします。
・虫歯菌の種類や数
・砂糖の摂取量が多い
・不規則な食生活や間食が多い
・丁寧な歯磨きを1日に1回以上行う
・歯磨き回数が少ない
・唾液の分泌量が少ない
・歯並びが悪い
・歯周病や歯ぎしりなどで歯茎が下がる
・被せ物や詰め物が多い
・加齢や免疫力の低下
これらの中で該当するものがあれば要注意で、該当項目が多いほど危険信号が強くなります。こんなにたくさんあって大変だと思わないでください。虫歯にならない人は努力して維持しているのではありません。こうした口の中の悪い環境と無縁の生活が癖のように自然と営まれているだけで、最初は大変だと思っても一つ一つクリアしていき、それらが日常のルーティーンワークとなってしまえば努力は必要なくなります。何事も最初の一歩を踏み出すことから始まります。
虫歯になりやすい口の中の環境
口の中の細菌の種類や数
口の中は大腸の中と同じ程度の細菌密度で、非常に多くの細菌が生息しています。虫歯になりやすい人はその細菌の中の虫歯菌が多く活発に活動しています。
北欧の虫歯の多い家族から引っ越しでペットの犬を頂いた隣家がいました。虫歯がなかった隣家で突如虫歯が発生し始めたため虫歯菌の遺伝子検査を行ったところキスをする習慣がある事からペットを介して感染したことがわかりました。この研究からわかることは、虫歯菌は他の人に感染することと、虫歯菌が増えれば虫歯を発症することです。歯質が弱いからではありません。家系的に虫歯の多いのも家族間での感染があるためで、これも歯質の問題と諦めるのは早計です。
虫歯の発生を抑えるためには、口の中の虫歯菌の数を減らすことが大切です。その具体的は方法をご紹介いたします。
虫歯菌の栄養となる糖分を減らす
人だけでなく、細菌も仲間を増やし活発に活動するには栄養が必要です。栄養を断てば増えることも活動することもできなくなり、自然と虫歯と縁を切ることができます。この糖分とは砂糖だけではありません。分解して糖分になる炭水化物も含まれます。
ただしここで誤解して頂きたくないのは、糖分を摂取しないことではなく食後に糖分を口の中に残さないことなのです。炭水化物はエネルギー源となるため一定量は必要です。後でご説明する歯磨きや食生活、唾液などと並行して考慮することが大切になってきます。
不規則な食生活や間食をやめる
口に食物が入ればその直後からお口の中は酸性に傾き、虫歯が発生しやすいリスク環境になります。だらだら食べることや一日に食べる回数が多いとリスクが増加するため、虫歯予防にはメリハリのついた食生活が望ましいのです。
丁寧な歯磨きを1日に1回以上行う
虫歯菌はプラーク(歯垢)と呼ばれる粘着性のある糊のような物質に守られています。プラークは洗口してもリンゴを食べても取れませんので、丁寧に歯ブラシ等で取り除く必要があります。プラークにより歯が溶け始め虫歯になるには24時間の猶予がありますので、1日に1回以上は確実にプラークを除去してください。可能であれば毎食後や口に食べ物を入れた後が望ましいのですが、忙しい現代人にとって難しければ、不十分な歯磨き3回より時間をかけた丁寧な歯磨き1回の方が効果は高くなります。磨き残しが少なくなるからです。
歯磨き回数が少ない
上でご説明したように回数が多ければいい訳ではなくその質が重要です。しかし食後すぐに口の中が酸性に傾くことと、食後時間の経過と共に粘着性のプラークが形成されて歯ブラシで取りづらくなるため、歯磨き回数が多いほど有利なのも事実です。このプラークにも個人差があり得るため、虫歯になりやすい人は回数も増やす方がいいでしょう。
唾液の分泌量を増やす
虫歯菌の出す酸により虫歯になります。唾液にはその酸を中和する作用や細菌を洗い流す洗浄作用、動物が本能的に傷口をなめるように唾液には殺菌作用があります。このように唾液によって歯は守られているのですが、唾液の分泌量が減少すると虫歯になりやすくなります。このため水分補給では喉の渇きは癒せても、唾液の代わりにはなりませんのでご注意ください。
この大切な唾液は口で息をすると蒸発するため、その恩恵を受けられなくなります。また薬の副作用により唾液分泌そのものが減少する場合もあります。緊張やストレスなど交感神経が優位になることでも唾液の分泌量が減少します。
解決策としては、担当医に同等の薬効がある唾液分泌減少の副作用がない薬に変更を依頼する、鼻呼吸を意識する、リラックスを心がけ副交感神経を優位にするなど工夫次第で唾液の分泌量を増やすことができます。
歯並びが悪い
虫歯は歯の溝や歯と歯の間、歯と歯茎の境目、銀歯と歯の境目など歯磨きがやりにくい場所によくできます。歯並びが悪い場合も磨きづらいため虫歯ができやすくなります。デンタルフロスや糸ようじ、毛束の小さな歯ブラシなど道具を工夫して磨かれるといいでしょう。歯科衛生士にご自分に適した道具と磨き方を教わるのが早道です。また歯科矯正で磨きやすい歯並びを獲得する方法もあります。
歯周病や歯ぎしり
歯の表面にはエナメル質という人体で最も硬い組織があり、傷や細菌から歯を守っています。2~3mmの薄さですが、人の体の表皮のように外敵から身を守るバリア効果があります。しかしエナメル質は歯の頭の部分にしかなく、本来歯茎で覆われている根の部分にはありません。ところが歯周病や歯ぎしりなどで歯茎が下がるとエナメル質に覆われていない根が口の中に露出し、非常に虫歯にかかりやすくなります。
こうした病気の治療と共に虫歯に弱い根を丁寧に磨くことが大切です。高濃度フッ素配合の歯磨きペーストを使用するのもいいでしょう。
被せ物や詰め物が多い
微細な隙間には歯ブラシの毛先が入らず汚れは除去できません。細菌にとっては格好の住みかとなり、虫歯がよくできる場所になります。この隙間は歯の溝や銀歯など人工物と歯の境目にあります。虫歯になって治療を受けたのに、その境目からまた虫歯になるのは納得しがたいことだと思いますが、人工物と歯には必ず継ぎ目が発生するため避けようがないのも事実です。被せ物や詰め物が多いことはお口の中に隙間が多いことで、虫歯の発生リスクが高い事になります。これが昔からできるだけ歯を削らない方がいいと言い続けてきた理由の一つです。この隙間は歯ブラシの毛先が入らないため、どんなに頑張っても磨くことができません。そのため人工物の作製精度を高めて可能な限りこの隙間をなくすことが重要になってきます。
これが精度の劣る銀歯に再度虫歯ができやすい理由の一つです。
加齢や免疫力の低下
虫歯は細菌による感染症であるため、細菌と闘う免疫力は守りの要になります。加齢や免疫力の低下が起こる病気や薬などによりその闘いは不利になります。腸内環境は免疫の要と呼ばれており、プロバイオティクスを用いたバクテリアセラピーが今注目されています。
ご興味がおありの方は「ロイテリ菌とは」をご覧ください。
加齢による唾液の減少や再石灰化力の減少は根面齲蝕(根の虫歯)の増加と関連があり、問題となっています。
今後の取組み
虫歯になりやすさはある程度コントロールできることがお分かりいただけたでしょうか。最初にお話ししましたが、項目の多さに諦めることはありません。一つ一つできることから取り組んでいけばいいだけです。一度にたくさん取り組んで挫折するより、今できることをコツコツ積み重ねていくことがゴールまでの近道なのだと考えています。
小さな欠点が多いことより、一つでも致命的な欠点がある方が人の寿命を左右します。今は達成できていない項目が多いからと諦めず、致命的になる可能性がある項目から一つずつ取り組んでみてください。私たちがそのお手伝いをさせていただきます。