根管治療(歯の根の治療)後の治療法の選択で歯の寿命が変わる!

全米の「歯科医院ベース研究ネットワーク(National Dental Practice-Based Research Network)」46,702人の患者さんの歯の根の治療をした歯71,283本のデータを元に、根管治療後の生存率を調べた研究で歯を長持ちさせるヒントが出ましたのでご紹介いたします。

根管治療
根の治療をした歯全体の寿命の中央値が11.1年であり、さらに根の治療後の被せ物などの人工の歯の治療法の違いにより歯の寿命が左右されることが明らかになりました。いままで歯や詰め物などの寿命に関して具体的な数字はない状況でしたが、おおよその経験則でしか語られなかった部分がより明確になりました。今後、根の治療後の治療方針を考慮する上で、一つの指標になる根拠となりそうです。
具体的に見てみましょう。

  • 根の治療をした歯全体の寿命の中央値が11.1年
  • 根の治療後にかぶせ物のみの場合は11.4年
  • 根の治療後に充填のみの場合は11.2年
  • 根の治療後にかぶせ物・充填処置を行わない場合は6.5年
  • 根の治療後にすぐに充填を行いかぶせ物を装着した歯は、生存期間の中央値が20.1年

根充
同じ根の治療を行っても最短では6.5年、最長では20.1年と大きな開きが出ています。
このデータからは根の治療をした歯は土台とかぶせ物を装着したほうが一番長く歯を使える結果になっています。
被せ物を装着するために多少歯を削ってでも被せた方が歯が長持ちしているのです。
この結果は数字はともかく私の臨床経験からも頷ける結果です。

ファイバーコア
悪くして神経の治療になってしまった場合は、この調査結果からも歯の寿命に黄色信号がともります。
ですから少しでも条件がよくなる治療を行い可能な限り長持ちさせてあげることをお勧めいたします。
具体的には、グラスファイバーの土台(注)を入れて歯を補強する、多少予算をかけてでも歯にピッタリ合った被せものを装着し虫歯の再発をできるだけ防ぐことです。
またこの調査結果からみればその歯にまだご自身の歯質が残っていても部分的な詰め物ではなく、多少多く歯を削ることにはなっても歯の大部分を覆って歯質を守る効果のある被せものにした方が歯が長持ちする結果になっています。
さらにその歯だけの視点でなく、その歯に噛む力が集中しないように他の歯と協調して噛む力をバランスよく負担する、歯を失っている場合は入れ歯やブリッジ、インプラントなどで噛める範囲を多くしてその歯の負担を軽減する、などのお口全体の視点も必要です。

(注)神経を失うと歯はもろく強度不足になります。その強度不足を補うために以前は金属製の心棒を歯の中に接着する方法が一般的でしたが、強い力が歯に加わった時に金属より強度が弱い歯の方が割れることが散見されるようになって、現在は歯と同じようにしなり歯が割れにくいグラスファイバー製の土台が主流になってきています。
グラスファイバー土台の詳細はこちらへ

歯を長持ちさせる方法(できるだけ歯の神経を取らない)

親知らず
しかしここで気づくことがあります。根の治療後の歯の寿命の長短はあっても人生という長いスパンで考えるととても短い期間しか神経の無い歯は生存出来ないということです。虫歯も歯周病もない健康な歯は120年もつとも言われています。
いかに神経を取らないようにするかが、その歯の寿命を大きく左右することがご理解いただけるでしょう。
これが長年の臨床経験から「歯の神経はできるだけ取らない方が歯が長持ちする」と言い続けてきた理由です。
そのために神経近くまで進行してしまった虫歯治療の際には抗生物質を用いた除菌治療を用いて神経を温存することをお勧めしています。
すでに神経が感染してしまった後ではその治療は効果はなく後で神経を取る症例が稀に出てきますが、やってみる価値があると考えるのはこのように神経を失った歯の寿命が短くなることが明らかになっているからです。除菌治療の詳細はこちらへ

もっと長持ちさせる方法(早期発見・早期治療)


さらに除菌治療よりも歯を長持ちさせる方法があります。
虫歯を放置したり、治療を繰り返すことでどんどん虫歯は深くなっていきます。
そして次第に虫歯は歯の神経の近くまで進行していき、除菌治療が必要になり、さらに進行すると神経の感染を招いて歯の神経を取る根管治療が必要になってきます。この負の連鎖を止めることが非常に大切なのです。
そのためには虫歯を深くならない段階で虫歯の早期発見、早期治療が重要になってきます。
これが私が治療後に定期歯科検診をお勧めしている理由です。
ご自分で気づける程度まで虫歯の進行を許してしまうと短命になることをご理解いただきたいと思います。

さらに長持ちさせる方法(次の治療を必要としない)


仮に虫歯になってしまった場合には虫歯を削り取って進行を止め、削り取って空いた穴を人工物で埋める治療が必要です。
我々歯科医師が日常的に行っている治療の多くは治療のやり直しです。一度治療した歯には人工物が装着されます。
歯を削った部分は治療してない歯に比べると虫歯にとてもなりやすく再発しやすい場所です。
また歯と人工物の継ぎ目が高い精度でピッタリ合っていないとその隙間から虫歯が発生することが起こります。
これが銀歯の周囲や下から見つかる虫歯の正体です。
①虫歯になる→②治療する→③虫歯の再発→④再治療する(場合によって神経を取る)、この流れを②の治療で小規模で確実な治療を行うことが長い目で見て歯の寿命に大きくかかわってくると考えています。これが多少費用がかかっても精度の高い治療をお受けになられることをご提案する理由です。

最も長持ちさせる方法(虫歯にならない予防)

PMTC
最高のものは天然の歯です。人工物でそれを超えるものはこの世にありません。
ですから、先にお話しした「①虫歯になる」をなくせばそれ以降の治療も、歯の短命化も無関係になるのです。
それが当院がご提案しているメンテナンス(一般的にはクリーニングと呼ばれているようです)です。
虫歯にならなければ長期間通院することも、治療費も必要ありません。
その代わりに日々のお口のケアを行いながら3か月に1回メンテナンスを受けるだけです。
数千円のメンテナンス費用は治療費より圧倒的に経済的であり、さらにご自分の歯の寿命が飛躍的に長くなりおいしく食べられる権利を手にしたとお考えいただけないかと考えています。この経済性と歯の寿命の延長は欧米の長年の研究調査から明らかになっている事実なのです。
末永くご自分の歯で噛み、食べて、幸せな食生活をお送りください。
メンテナンスの詳細はこちらへ