口臭の改善・防止と治療の実際
口臭には生理的口臭、外因的口臭、病的口臭、心因的口臭の種類がありそれぞれに違う原因があるため、治療法も原因別にご説明いたします。
このお話しの前提となる口臭の種類や口臭の詳細は「口臭の原因とメカニズム」をご覧ください。
口臭の検査
口臭とは主観的なものです。臭いに敏感な人もあればそうでない人もいらっしゃいます。
また臭いは順応といって慣れてしまうことが起こるため、常に嗅いでいる臭いは感じず、ご自身では口臭に気が付かない場合も多々あります。
電車の中できつい香水に周りは閉口する中、平然としている御本人と同じ状況です。
口臭の種類(原因)の判別や臭いへの慣れの鑑別には検査による判定が必要です。
検査にはガスクロマトグラフィーや口臭測定器そして官能検査が行われています。
ガスクロマトグラフィーは口臭を測定できる専用の機器になります。
臭いの原因になる揮発性硫黄化合物(メチルメルカプタンや硫化水素、ジメチルサルファイド)の濃度を種類別に測定し判定します。
臭いをグラフの数値で可視化でき、分かりやすく正確に測定できます。
口臭測定器は揮発性硫黄化合物の濃度を計測し、口臭があるかどうかを検査することができます。
ガスクロマトグラフィーのようにそれぞれの成分ごとに濃度がわからないため、ガスクロマトグラフィーに比べると簡易的な検査になります。
官能検査は人の鼻で口臭があるかどうかを判断します。
しかし臭いの感受性は人によっても違うため正確さに欠けます。では正確な数字が出る上記の検査が有効かといえばそうでもありません。
人の身体にはバイオリズムがあり、口臭にも上下に変動します。数少ない検査で多少の数字の上がり下がりで一喜一憂する意味がどこまであるのか疑問だからです。
実際に臭いを感じるのは他人という人間であるので、第三者によって「非常に臭う」~「臭わない」までの数段階の官能検査で臨床上は問題なく、合理的ともいえます。
当医院では口臭にお困りの方、口臭が疑われる方には簡易的に官能検査を行います。
またお口の中の検査(虫歯検査や歯周病検査)や臭いの原因となる清掃不良などが無いかをお調べします。
原因となっている病気があれば口臭治療と並行して病気の治療を行い、治療終了後再び検査を行います。
治療後には口の中の問題や病気が原因であれば口臭は減少し改善します。
しかしそれでも改善しない場合や、全身疾患に関係する病的口臭や心因的口臭に関しては専門の科がある大学病院を紹介させていただいております。
生理的口臭と外因的口臭の治療法
生理的口臭は寝起きや緊張時など唾液分泌の減少により誰にでも起こりうる口臭ですから治療の必要はありません。
また外因的口臭もニンニクやネギなどの臭いを発生させる食べ物が原因の一時的な口臭ですからこれも治療の必要はありません。
対処法は食事や水分補給をするなどしてお口の中を乾燥させないことや、歯磨きや洗口をする、または唾液分泌量が鍵ですのでガムを噛むなど食品を口に含むと唾液分泌量が増え口臭を抑えやすくなります。
病的口臭について
口臭の約90%が口の中にあると言われていますが、呼吸器、消化器、耳鼻咽喉領域、糖尿病などでも口臭は発生します。
歯科領域の口臭の80%が舌の表面からで、他には歯周病でも口臭は発生します。
そのため口臭の原因となっている病気を特定し、治療することで口臭をなくす・弱くすることは可能です。
病的口臭の治療の基本
食べかすや粘膜組織、血液などの有機物を分解する細菌が発生するガスが口臭です。
お口の中が不潔であることはこうした細菌の餌が多くなるため、その結果発生するガスの量が多くなります。
基本的な解決策は細菌の餌を絶つこと、すなわち食べかすや出血などを口の中からなくすことです。
歯磨きや舌の表面の掃除など口の中を清潔に保つことが口臭予防だけでなく、虫歯や歯周病予防にとって重要になります。
口の中の食べかすは歯磨きやフロス、歯間ブラシで、舌の表面は舌スクレイパーで除去し、出血は原因の歯周病(歯肉炎や歯周炎)を治療し、食べかすが残りやすい部分や虫歯で空いた穴の治療をすることをお勧めいたします。
舌と口臭
よく歯磨きをしても口臭がなくならないとご相談を受けますが、口臭ガスの発生源の8割(あくまで平均値で症例によって変わります)が舌の表面です。
ここで舌の表面がどうして大きく関わっているのかをご説明いたします。舌の表面がザラついていることはご存知のことと思います。
そのザラつきは舌の表面が小さな舌乳頭と呼ばれる突起がじゅうたん表面の繊維のようにびっしりと生えているためです。
突起同士の隙間に入った食べかすなどの有機物は水で洗い流すことができないため体温と水分で腐敗し、さらにそれを餌とする口臭の原因ガスを発生させる細菌が多量に住み着き・繁殖します。その結果、舌から口臭ガスが多量に発生します。
じゅうたんの上にミキサージュースをこぼしたと想像してみてください。繊維の間に入り込んだものは雑巾で拭こうがブラシでこすろうがなかなか取れないでしょう。
口の中で舌はじゅうたん、食べかすや有機物がジュースにあたり、うがいは歯磨きくらいでは取ることができません。
しかし後で述べる専用の道具で効率よく取り除くことができます。
舌は口の中の大半の面積を占めている上に、さらに突起表面の面積をカウントすると実に舌の何倍もの面積になりますので、そこで起きるガスの量も多く臭うのです。
従って歯磨きだけでなく舌の掃除も行うことが口臭予防には大切になってきます。
舌の掃除のやりかた
舌の掃除には舌ブラシやタング(舌)スクレイパー(クリーナー)などが市販されています。
どちらを使ってもいいでしょうが、それぞれの特徴を知ってお選び下さい。
・舌ブラシ:柔らかく舌を傷つけにくい反面、掃除効果は若干劣る
・タングスクレイパー(クリーナー):掃除効果は高いが、強い力では舌を傷つける
先ほど舌の表面は絨毯に似ているとお話ししました。絨毯の上にピーナッツバターをこぼした時、ゴシゴシこすればピーナッツバターはどんどん絨毯のループの中に入り込んでいき、多くのピーナッツバターは残ったままになります。ところが平たく薄いヘラ(スクレイパー)を押し付けずに軽く引き寄せればたくさんのピーナッツバターを取り除くことができます。この原理で舌の表面のお掃除ができます。
両者に共通するのはやり過ぎないことです。口臭が気になるからどうしても念入りになりがちです。
やり過ぎると舌の粘膜を傷つけてしまい、粘膜の剥離や出血を招き返って口臭がひどくなります。
剥離した粘膜や出血はタンパク質で、細菌の格好の餌になるからです。
タングスクレイパーなら軽く舌の表面に当て、ゆっくり手前に引くことを数回行えば十分です。
スクレイパーで舌の表面をなぞると白いまたは少し黄色がかった糊のような物質が取れてきます。
これが口臭の元なのですが、取れると気持ちがよくなりついついやり過ぎてしまいます。
くれぐれも優しく、そして過ぎたるは及ばざるがごとしにご注意ください。
歯周病と口臭
歯周病の進行程度によって臭いのレベルは異なり、臭いがあってもご自身では気付かない程度の口臭から、歯周病が悪化してご自身でも不快に感じるほどの強烈な口臭にもなります。
ただし歯周病は基本的には慢性疾患であるため、一定以上のレベルでは日常的に不快臭が発生しています。
人間の習性としていつもある臭いには鈍感になるため、ご自分では臭いに気づかず家族から指摘されて初めて自分に口臭があることに気づくケースがあります。
歯周病が進行すると歯周ポケットと呼ばれる歯と歯茎の間の隙間が深くなります。
深くなった歯周ポケットの中まではハブラシは届かないため、プラークが取れなくなり、細菌の繁殖する楽園になってしまいます。
また歯周ポケットは空気が届きにくいため時間がたつにつれ菌が成熟して、嫌気性菌と呼ばれる悪さをする菌が増えます。それが臭いの主な原因です。
そして歯周ポケットの中のプラークが歯石になり、さらに菌が付着しやすく、繁殖しやすくなります。こうして歯周病と臭いの進行に加速度がついていきます。
歯周病が原因で口臭が生じている場合の治療法は歯周病の治療と毎日のお手入れです。歯周病はすぐには治りません。
歯周病改善には日々の手間と時間がかかりますが、病状の改善と共に臭いは段々減少してきます。
臭いは病気の一つのサインでもありますので、早めに治療をお受けになることをお勧めいたします。
治療法は病的口臭の原因である歯周病の治療を行います。
歯石を取るスケーリングや、歯の汚れを落とすクリーニングやPMTC、ご自身でプラークを取り残さないための歯磨き説明と実地練習などです。
これらの治療を行い口臭の改善を図ります。
詳細は「加齢による口臭と歯周病」をご覧ください。
虫歯と口臭
虫歯になると歯に穴があきます。その穴の中はハブラシが届かず食べかすの腐敗と共に細菌が繁殖します。
虫歯の穴が大きい、深い、神経や骨の中まで細菌に感染する、多数の虫歯があるなどが起こると口臭が発生します。
詰め物や被せ物の間の細かな隙間の細菌も、歯磨きやクリーニングでは除去できないため同じです。
虫歯の治療を行い細菌の数を減らすことが最も有効な治療法です。
虫歯を完全に除去し詰め物や被せものを入れる、または歯との隙間のない詰め物や被せ物を作り直すなどで細菌が繁殖しないように治療する必要があります。
歯磨きやマウスウォッシュは口臭予防に有効?
病的口臭の一つの原因である歯周病には治療と並行して歯磨きは非常に大切です。
しかしマウスウォッシュなどの洗口剤はそのものの刺激で臭いを一時的にマスキングするだけで根本原因の解決にはなりません。
特にテレビコマーシャルにも出ている有名な洗口剤にはアルコールが含まれており、唾液分泌を抑制して逆効果になることもあり注意が必要です。
病気などが原因ではない口臭
人は動物です。体の表面には細菌が多く存在します。お口の中も同じように様々な細菌がいます。
そのため、病気でなくても体臭と同じように口臭がどなたにでもあります。一日の仕事を終えた後は体臭がしますが、体を洗うとその臭いはおさまります。
それと同じように口臭も状況により弱い時もあれば強く感じる時もあります。
このような朝起きた時、お腹が空いている時、心理的に緊張した時など病気でない状態でもどなたにでも起こり得る口臭を生理的口臭といいます。
体の表面と比べると口の中は唾液で水分が豊富であること、食事などで栄養が豊富であること、常に外気に触れていないため換気性が悪い上に体温が逃げにくく保温性が高いなどにより細菌がより繁殖しやすい環境だからです。
ですから心配されることはありません。生理的口臭と外因的口臭の治療法でお話しした注意点だけをご覧ください。
体の病気が原因の場合
口臭の原因の90%はお口の中にありますが、お口に対する口臭治療を行っても改善しない場合や口臭を伴う全身の病気がある場合は、体の病気に対する治療が必要になります。
関連する病気は口腔癌、鼻やのどの病気(副鼻腔炎や咽頭・喉頭炎)、呼吸器系の病気、消化器系の疾患、糖尿病など様々なものがあります。
特に糖尿病は免疫力が低下する病気のため、歯周病を悪化させることがわかっています。
歯周病は糖尿病を悪化させる病気でもあるため、口臭の観点からも歯周病治療と並行して糖尿病治療を行うことが大切です。
当院ではこのような相互に関わる病気間の医科歯科医療連携を行っており、必要に応じて信頼できるお医者さんを紹介させていただいております。
口臭が気になるかたや、他にもお悩みがある方はお気軽に当医院にご相談ください。
臭いに関する記事
・口臭の原因とメカニズム
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