50代男性「奥歯で噛むと痛い」抜歯後インプラントを入れた症例

2023.11.09

治療前

治療1前レントゲン
左下奥歯(左下7番)に痛みがあり、噛むと痛いとお見えになられました。
奥歯3本には被り物が入っており、レントゲンを撮影すると3本とも神経がなく、根の先に感染と思われる黒く写る骨が破壊像が認められました。実際に噛むと痛い歯は一番奥の左下7番だけでした。

治療中CT

治療1前CT
精査のため左下7番の被り物を外した状態でCT撮影を行いました。
通常のレントゲンでは確認できない根の周囲や2本の根の付け根部分に炎症によって骨がなくなっていることが判明しました。
病状の進行度合いからすれば根のヒビや割れが考えら、残念ながら抜歯をお勧めしました。

抜歯後CT

治療1CT
抜歯とその後の噛む機能回復に入れ歯ではなくインプラントをご希望されたため、抜歯と同時に骨が痩せるのを防止するために造骨材を入れ、数か月後にCT撮影を行い、インプラント治療の計画を立て手術を行いました。

治療1後

治療1後レントゲン
インプラントとその上にセラミックを被せて初回の治療が終了しました。
手前の左下5番と6番の根の先の病巣の治療は今回は見送りたいとのご希望でした。

治療2

治療2抜歯前レントゲン
前回治療の5か月後に前回治療した1本手前の左下6番にお痛みが出て来院されました。
その6番と手前の5番の根の治療を行いましたが、6番だけ経過が思わしくありません。
歯のヒビ割れ等を疑いましたが確証はありませんでした。

治療1後
症状がなくなったため、5番はセラミック、治癒の確証が得られなかった6番には保険の銀歯を被せて2回目の治療が終わりました。

治療3

治療2抜歯後レントゲン治療2CT

2度目の治療から2年後に再度左下6番で噛むと痛みがあると来院されました。
前回治療でも経過が思わしくなかった経緯とレントゲンから前回も疑っていたヒビ割れがあることが予想され、これ以上放置することは歯を支える骨を失うリスクが高いと判断して抜歯をご提案しました。
現状をご理解いただけたため抜歯してみると、予想通り根に事前検査では判断できなかった微細なヒビ割れがありました。
また抜歯後にはインプラントをご希望されたため、CTで治療計画を立てた後手術を行いました。

治療3後

治療3後治療3後レントゲン
今回の治療は左下6番だけでした。前回の左下7番のインプラントも含めて骨の状態は良好です。

最初の治療から7年後

7年後
初回の治療から7年が経過した状態です。
食生活や日常生活の問題もなく、セラミックは見た目の変化もなく奇麗な状態が継続しています。

年齢と性別 50代・男性
ご相談内容 左下奥歯(左下7番)に痛みがあり、噛むと痛いとお見えになられました。(治療1前写真)
カウンセリング・診断結果 拝見すると左下7番の歯は神経がなく銀歯がかぶっていました。噛んだ時だけでなく軽くたたいただけでも痛みがあり、レントゲン撮影では黒く映る根の周囲に骨が細菌によって溶けた跡が確認でき、歯周病検査でも歯の頬側中央部に異常がみつかりました。
精査のためCT撮影をしたところ、根の周囲と2本の根の分岐部に黒く写る骨の破壊像がみられたため、根の一部が割れたりヒビが入っている可能性があると考え、残念ながら抜歯せざるを得ない状態だとご説明しました。
噛みしめる癖がおありだと伺っており、神経がなくもろい歯に硬すぎる銀歯が入っていたことが原因だと考えました。
またレントゲンからは手前の左下5・6番にも根の先に黒く写る病巣を確認しました。
行ったご提案・治療内容 根の周囲の骨の破壊されている状況から左下7番の抜歯、左下5・6番の被り物を取り除き根の内部の治療(根管治療)をご提案しました。また失う左下7番の代わりに咀嚼機能を維持するために入れ歯とインプラントの選択肢があることをご説明いたしました。歯を抜いたまま放置しても効率は劣るとはいえ左側で噛めないことはありませんが、左上7番の噛み合う歯がなくなるため、左上7番が下に伸びだしてくる懸念があります。伸びだせば歯と歯の間に食べ物が詰まりやすくなり、虫歯になる可能性が高くなるでしょう。それよりも左下奥歯が1本少ない状態は、手前の左下6番に7番の分まで噛む力を肩代わりさせるため、この6番も神経がなくもろく弱いはであることを考えると6番の寿命も短くする可能性が否定できません。そのため何らかの方法で失った歯の代用の人工物を入れることが他の歯のためにも必要です。

左下7番の現状のご理解が得られ抜歯をご希望されました。そして入れ歯は避けたいとのお考えからインプラントによる機能回復を行うことになりました。しかし費用面から今回は左下5・6番の治療は見送り、左下7番のみの治療となりました。

実際の治療は、左下7番の抜歯と同時に骨が痩せるのを可能な限り少なくするため、歯を抜いてあいた空洞の中に骨と似た成分の人工的な材料を入れる造骨治療を行いました。歯を抜けば歯が入っていた骨の中に大きな空洞が生まれます。一般的には体はその空洞を経時的に骨が内部から回復して埋めていきますが、一方で全体的な骨の量は痩せていきます。造骨治療は骨の回復を支援しながら全体の骨の痩せを少なくする治療です。インプラントは歯と同様に骨で支えられるため、周囲の残った骨が多い方が有利だからです。

抜歯から6か月後にCT撮影を行い、インプラントの可否、最も有利なインプラントを入れる位置や角度、どんなインプラントを用いるかをパソコン上でシミュレーションを行い結果をご説明いたしました。(治療1CT画像)
その治療計画に沿ってインプラント手術を行い、当日は入れたインプラントの上に歯茎を戻して縫い合わせました。手術翌日と3日後の消毒と1週間後に縫った糸を取りました。手術から4か月間骨とインプラントがくっつくのを待った後に歯茎の下にもぐっているインプラントと人工歯をつなぐための土台を入れるための2次手術を行い、これもまた消毒と糸取りを同様に行いました。そこから1か月弱で土台の上に仮の歯を装着して実際に噛み、日常生活を送る上で問題がないかを確認しました。
患者様と歯科医双方から問題がみつからなかったため、歯型をお取りして最終的なセラミック(カタナ)をインプラントにネジ止めして左下7番の治療が終了しました。(治療1後の写真)

1回目の治療から5か月後にインプラントの1本手前の左下6番が岩塩を噛んだ後から痛むとお見えになられました。頬側の歯茎に腫れがあり歯の破折も疑いましたが、確証が持てなかったためまずは保存するため根の中の治療(根管治療)をご提案しました。同時に以前指摘をさせていただいていた左下5番も根管治療もご希望になられました。(治療2写真)

5番の根管治療は順調な経過をたどりましたが、6番は長期間かけても一定のレベル以上に回復しませんでした。この時点で当初の根が割れる(破折)の可能性が浮かびましたが、決定的な症状や証拠がないため、ご相談の上6番に関しては費用負担が少ない保険の銀歯を被せて経過観察をすることになりました。この時点で噛むときの痛みは消失していました。
根の内部の治療後5番はグラスファイバー製土台を入れて歯を補強し、6番と共に歯型をお取りして、次のご予約で5番はセラミック(カタナ)、6番は銀歯を歯に接着して2度目の治療が終了しました。
その後のレントゲンから右下5番の根の先の黒い影は治療によりなくなりました。

その治療から2年後に左下6番で噛むとお痛みがあると来院されました。以前からの経過とレントゲンなど歯の現状から歯のどこかにヒビや割れが存在していると考えられました。残念ながらこの歯はこれ以上残すことが他の歯にとってもマイナスになると判断しました。こうしたご説明と今後のご相談をしたところ、抜歯してインプラントをご希望されました。
抜歯してみると予想通り根に事前検査では判断できなかった微細なヒビ割れがありました。
治療計画を立てご説明し、ご了承されましたのでCTにより前回と同じように検査を行い、実際の手術に入りました。(治療3CT画像)
通常は前後の歯のほぼ中央にインプラントを入れることが大半ですが、早期の治療をご希望であったため、抜歯後半年後に2本あった根の手前側にインプラントをお入れしました。治癒期間が若干短かったため骨の回復が不十分であったためです。
手術後の消毒等も前回の左下7番と同様で、4か月後に2次手術を経て仮歯での日常のテストを行い、問題がなかったため歯型をお取りしてセラミック(カタナ)をインプラントにネジ止めしてこの歯の治療が終了しました。(治療3後の写真とレントゲン)

治療期間 1回目の治療は約6ヵ月、2回目の治療は約5か月、3回目の治療は約12か月
治療回数
費用目安 1回目の治療:506,080円
2回目の治療:163,760円(保険一部負担金除く)
3回目の治療:462,810円
術後の経過・現在の様子 最初の治療から7年、2回目の治療から5年、3回目の治療から2年半が経過しています。現時点では特段のお困りや食生活を含めた日常生活上の問題はなく、定期的にメンテナンスと定期健診で年4回通院されていい状態を維持されていらっしゃいます。
治療のリスクについて ・外科手術のため、術後に痛みや腫れ、違和感を伴います
・メンテナンスを怠ったり、喫煙したりすると、お口の中に大きな悪影響を及ぼし、インプラント周囲炎等にかかる可能性があります。
・糖尿病、肝硬変、心臓病などの持病をお持ちの場合、インプラント治療ができない可能性があり、高血圧、貧血・不整脈などの持病をお持ちの場合、インプラント治療後に治癒不全を招く可能性があります。
・まれに根管治療後も再治療、外科手術、抜歯などの処置が必要となる場合があります。
クリニックより 患者様と歯科医お互いに歯を残したいとの共通認識で進めて参りましたが、奥歯2本を助けることはできませんでした。残念です。この原因の原点は歯の神経を失ったことから始まっています。神経を失った歯は治療により噛めることが回復するため、一般的には治ったかのようにお考えになられることでしょう。しかし歯の強度は落ち、もろくなりヒビや割れが起こりやすく、長く持たないケースによく出会います。厚生労働省の統計でも神経を取ることで歯の寿命は5~10年短くなってしるのも頷けます。
この強度の低下に加え、硬すぎる銀歯を被せることによりさらに歯や根が割れやすくなります。こうした歯の短命化を長い臨床の中でたくさん見てきました。これを回避するにはできるだけ歯の神経を取らないことが歯の寿命に関わると感じて、神経近くまで深く進行した虫歯治療の際に抗生物質を用いた除菌療法で神経を保存する治療を長年お勧めしてきました。除菌治療は手遅れのケースが混在するため治療結果は100%ではありませんが、このような歯の短命化との引き換えであるならばやってみる価値はあると私は考えています。
この方とのお付き合いは10年を超えています。今後も快適な食生活を維持するために経過を一緒に追いかけて参りたいと考えています。

治療の詳細は下記をご覧ください。
根の中の治療(根管治療)
セラミック(カタナ)
インプラントの詳細は下記をご覧ください。
インプラントとは
インプラントの種類
インプラント治療を受けられない人
骨が少なくてもインプラントを受ける方法はあるのか
インプラントと天然歯の違い
骨が痩せてしまった場合の将来的なリスク