インプラントに反対する15の理由、賛成する理由

インプラント否定論

欧米ではインプラントを否定する歯科医師はほぼゼロと言われていますが、近年は減少してきたとはいえ日本には歯科インプラントを否定する歯科医師がいらっしゃるようです。
またインプラント手術後のトラブルが一部報道されたこともあり、一般の方々にも受けるべきではないとお考えの方もいらっしゃいます。
私自身はインプラントは必要なケースにおいて肯定的ですが、それぞれのお考えがあってのことですので、私は尊重したいと考えています
しかし正確な情報の元に出された結論なのか、感情論とも聞こえる話を耳にすることがあり、私の臨床経験から正直な意見をお話ししてみたいと思います。

インプラントに反対する15の理由

治療後レントゲン
インプラントに反対される方々の代表的な理由をみてみましょう。
・インプラントは異物
・かみ合わせバランスがとりづらい
・転居でメーカーの違いによる今までと同じメンテナンスが受けられない(修理が大変)
・一生もつかどうかわからない
・経過が悪いインプラントを除去するのが大変
・歯周病に弱い
・再治療ができない場合がある
・外科手術のリスクがある
・全身疾患、骨の量など治療の制限がある
・治療費が高額
・治療期間が長い
・メンテナンスが必須
・金属アレルギーやMRI検査に問題がある
・インプラント治療は痛い
・インプラント治療は危険

インプラントは異物

インプラント
歯科で用いる材料は生体不活性、生体活性、生体許容性に分類され細胞毒性が無い材料になります。

生体許容性材料

生体内で材料のイオン成分が溶出し、材料の吸収は起こりませんが線維性結合組織で被包され骨と直接結合することがない生体材料で、Co-Cr合金、ステンレス鋼、高分子材料(歯科用プラスチックなど)、銀歯(金銀パラジウム合金)などがあります。
イオンの溶出は金属アレルギーと関わっています。
骨の中に埋め込むことは出来ず生体には異物として認識されます。
Co-Crは入れ歯の部品として、高分子材料は前歯等の小さな虫歯の詰め物(プラスチック)として使われ口の中で機能することが出来ます。

生体不活性材料

生体内で材料の成分は溶出せず,無刺激で安定している.材料の吸収はない化学的に安定しています。
骨との間に化学結合は形成されず骨と接触した状態になる生体材料で、インプラントで使用されるチタンの他、アルミナ、ジルコニア、カーボンなどがあります。
溶出量がわずかであるため、金属アレルギーの頻度は非常に稀とされています。
骨の中に埋め込むことができ、安定して体の中で機能し続けることが出来ます。

生体活性材料

生体内でほとんど吸収されず骨と直接結合する生体材料です。
ハイドロキシアパタイト、βリン酸カルシウム、生体ガラス、バイオガラスなどがあります。
ハイドロキシアパタイト、βリン酸カルシウムは骨を補填するための造骨治療で使われています。
骨の中に埋め込むことができ、生体が吸収することが出来ます。

インプラントを異物と呼んでいいか

辞書によると異物という単語には「違和感を与える奇異な物」という意味があります。
これらの歯科材料はすべて人工物のため、広い意味での異物(本来あるべきでない物)かもしれません。
しかしこれら多くの材料により虫歯治療、被せ物、入れ歯などが作られています。
こうした人工物のおかげで噛むことなどの機能を維持できています。
チタンは骨と馴染みがいい(骨造成を促す・骨と親和性がある)また、化学的に安定しているという特徴から、歯科インプラントだけでなく骨折時のプレートやネジ、人工関節にも使われています。
私には身体を支える生体の一部だと思え「違和感を与える奇異な物」とは思えないのですがいかがでしょうか。

かみ合わせバランスがとりづらい


天然の歯が歯根膜と呼ばれる極薄の組織を介して骨とくっついているのに対して、インプラントは骨と直接くっついています。
その構造のため噛んだ時に歯根膜のクッションがなく沈み込む作用がありません。
ミクロン単位のことですがわずかな差があるため、かみ合わせ調整の際に天然歯が沈み込んだ時に調和するようにかみ合わせ調整をする必要があります。
この調整は難しいものではなく、丁寧に行えばバランスを取ることは可能です。
ただし天然の歯が歯周病になるなど変化した場合を想定して、定期歯科検診時などで時々チェックすることをお勧めいたします。

転居でメーカーの違いによる今までと同じメンテナンスが受けられない(修理が大変)

国旗
世界中には無数のインプラントのメーカーと種類があり、それぞれ治療で使う器具類が異なるため、
将来何らかのトラブルが起こった場合に違うメーカーでは器具が共用できず治療の障害になることがあります。
そうした場合は事前にインプラントのメーカーと種類を前医に伺って、転居先で同じメーカーを扱っている歯科医院を探す必要があります。
別の方法では転居先の先生にお願いして新たに適した器具を揃えることでも対応は可能です。
ただし転居先の医院では普段使わない器具類であるため、その費用負担の問題や納期の問題から急な対応が難しい面もあります。
その点でメジャーなメーカーのインプラントを入れておくことが無難です。
世界でメジャー4メーカーと言われているのはストローマン社、ノーベルバイオケア社、ジンヴィ社(旧ジンマー)、アストラテック社です。
どのインプラントがいいのか

一生もつかどうかわからない

老人
形あるものに未来永劫はなく、これは人の身体にとって最強の天然の歯も同じです。
インプラントの平均的な寿命は10~15年と言われていますが、10年で90%以上がしっかりと機能しています。
入れ歯が4~5年、ブリッジが7~8年と言われていますので、日常の煩わしさがなくなり他の歯の寿命を長くする働きのあるインプラントの寿命を長いと感じるかどうかはご本人の価値観だと思います。また、インプラントは他の歯の負担を増やさず、一本の歯として機能するため他の歯の寿命を延ばすこともできます。
人工物の寿命はお手入れや体質など個人的な要件によりかなり左右されます。

ここで少し立ち止まってお考えいただきたいことがあります。
それは最強であるはずの天然の歯がどうしてなくなったかということです。
最強のものでも負けたのです。インプラントを始め人工的なもので天然のものを超えるものはこの世に存在しません。
原因を解消せず、入れればいいと安易なインプラントは一時しのぎにしかならないと思います。
原因は今までの歯に対する扱い方や考え方であることが多々あり、それらを解消・弱体化しながらの治療をお勧めいたします。
その努力はインプラントだけでなく残っている他の歯の寿命に貢献できます。

どのメーカーのインプラントがいいのかと聞かれることがありますが、
信頼性が高いメジャーなメーカーのインプラントであれば十分だと考えています。
それよりも長持ちさせるには、治療の内容と術後の管理が重要です。
インプラントの寿命

経過が悪いインプラントを除去するのが大変

親知らず
どういう状態のインプラントを除去するかで変わってきますが、これも天然の歯とそう変わりはないと考えています。
天然の歯にも根が曲がっている、根が肥大化している、骨と癒着しているなど抜歯そのものが非常に大変なケースがあります。
インプラント自体が折れたなど、しっかりと骨とくっついているインプラントを除去するのは同じように大変です。
しかしかなりまれなケースと言ってもいいでしょう。

天然の歯と同じように歯周病(インプラント周囲炎)を起こした場合には、当院では除去ではなくまずは洗浄など保存治療を考えます。
その効果がない場合は骨とインプラントの接着がかなり破壊されているケースですので除去は比較的簡単に行えます。通常の歯の抜歯とさほど変わりはありません。

また親知らずのように斜めに生えている、上顎洞や下歯槽菅などデリケートな組織と歯の根の先が接しているなども抜歯を困難にします。
インプラントはそもそもこうした場所を基本的には避けて植えてあることが多く、また真っすぐに入っているため、この点に関してはインプラントの方が楽です。

歯周病に弱い


天然の歯は歯周病(成人の歯を失くす80%の原因)にかかることがあります。
同じ口の中に天然の歯と同じように植わっているインプラントも他人ごとではありません。
お口の中が不潔になり細菌繁殖が旺盛になると、天然の歯より感染に対する抵抗性が若干弱い傾向にあるインプラントも歯周病(インプラント周囲炎)になるリスクがあります。
しかし丁寧にケアをしていれば多くのケースでは問題はなく、毎日の食生活を陰で支えてくれている症例を数多く見てきています。
当院は歯周病の管理ができており、一定レベル以上の維持ができている症例だけにインプラント治療を実施しています。
歯を失くしたからとりあえずインプラントを入れる、という安易な治療は行っておりません。
先に述べた歯を失くした事実(原因)から学び、病気になりにくい生活を手にしないとその場しのぎになるからです。

歯周病は歯とインプラントの大敵です。いかに歯周病をコントロールできるかが両者の将来を握っています。そしてどちらにも寿命という生存の上限があります。
どたらがどれだけ優れているかという考え方だけでなく、今できることは何かという考え方も大切ではないでしょうか。
先にインプラントの寿命で述べたように有限のものであったとしても、今と将来の食生活をどうするか、他の歯のことをどこまで思うかという問題だと考えています。
歯周病の進行と症状、治療法と予防法

再治療ができない場合がある


インプラントを除去した理由により変わってきます。
骨とのくっつきが不十分など、骨を感染により失っていない場合は除去後しばらく経てば再度インプラントを入れることができるケースが多いと思います。
しかしインプラント歯周炎などで骨を大きく失ったケースなどは、次のインプラントを支える骨がないため造骨治療が不可能であれば再治療はできなくなります。
これは骨が溶けて歯を支えることができなくなる重度の歯周病で歯を失った後と同じです。この意味では天然の歯と同じだと考えています。

外科手術のリスクがある

薬
医科・歯科を問わず外科手術にはリスクがあり、100%成功するとは申せません。
また術後の痛みや腫れなどは一種の副作用と見ることができます。
医療現場では可能な限りリスクを減らす努力はしておりますが、少数の予期せぬ問題が起こることがあります。
リスクの大きさにもよりますが、全くリスクを取らないとなると大多数の方の生活の質を犠牲にすることになります。
問題はこのリスクの大きさと頻度だと思っています。
取り得るリスクの大きさと頻度に対して得られるメリットの大きさを比較検討しながら、者さんと歯科医が一緒になって最終ゴールを決めていくことが大切だと考えています。
当院は予想可能な大きなリスクは手術自体を見送り他の治療選択肢をご提案するなど、事前にリスクと患者さんの要望と照らし合わせながらリスク管理を実践しています。
そのため少数のインプラント治療が不成功に終わった症例も含めて術後のトラブルの記憶がありません。

全身疾患、骨の量など治療の制限がある

高血圧、重度の糖尿病、血小板異常などの止血困難、脳血管障害、喘息、心身症などの疾患は治療ができない、治療の制限がある場合があります。
この場合でも提携の口腔外科で全身管理をしながら実施できる場合もあります。
また全身疾患の制限がなくても、インプラントを支える骨の量が少ない、食いしばり・噛みしめ・歯ぎしり癖がある、全身的な免疫力が低下しているなどの場合は他の治療選択肢をお勧めしています。
目的はインプラント治療することではなく、少しでも今より快適な食生活を送ることですから、他の治療選択肢も含めてご検討されるといいと思います。
インプラントができない場合やインプラントに年齢の制限はありますか?
入れ歯・ブリッジ・インプラントどれがいいか

治療費が高額

保険治療(3割負担)ではなく自費治療になります。
材料も器具も専用の物を用いることと、高度な知識と技術が求められます。
当院は手術の際には安全に配慮するために午前中一杯その方だけのご予約にして治療に集中できる環境を作ります。
また治療期間は数か月以上かかります。そのため一般的に治療に比べてどうしても高額になってしまいます。
費用の詳細は料金表をご覧下さい。

治療期間が長い

骨折
歯を抜いてから1か月以上経過している場合は、入れ歯やブリッジの場合は約1か月で治療が終わりますが、
インプラントの場合は抜歯後2か月以上骨の回復を待ち、さらに治療後2か月ほどで2次手術、そこから治療終了まで1~2か月かかることが一般的です。
歯と同じように骨で支えられる必要があるためインプラントには骨の十分な回復が必須な事と、骨折と同じように骨とくっつくのを待つ時間が必要だからです。
近年抜歯と同時にインプラントを入れる治療も行われていますが、それでも入れ歯やブリッジに比べて治療期間が長くなります。
入れ歯やブリッジより優れている特徴も持ち合わせているインプラントですが、期間の面では長くかかることがデメリットです。
今の何か月と将来の何年を比べてご自分にとってどちらが有利か不利か、どういった口の中に戻されたいのか、皆様方のお考えとご希望を尊重したいと考えています。

メンテナンスが必須

歯磨き
使いぱなしでは虫歯や歯周病になり、悪くすれば失ってしまう天然の歯も同じです。
インプラントも天然の歯と同じように歯磨きなどのケアが必要です。
インプラントだからと言って特別なケアではなく、他の歯と同じように丁寧に歯磨きをしてください。
またインプラントはネジで固定している構造上、噛む力で経年的にネジが緩むことがあります。
長く使うために飛行機や車と同じく、定期的にチェックする必要があります。
虫歯や歯周病チェックのために定期的な歯科検診を行う天然の歯と同じ扱いです。
正しい歯磨きの基本やコツ
定期歯科検診とメンテナンス(クリーニング)
クリーニングの種類、費用や頻度について

金属アレルギーやMRI検査に支障がある

MRI
金属アレルギーを起こしやすいい金属は、水銀、ニッケル、コバルト、クロム、パラジウム、スズ、白金、亜鉛、銅です。
その意味では歯科治療で使われる材料である水銀を含むアマルガム、パラジウムを含む銀歯、入れ歯の部品としてよく使われるコバルト、クロムには注意が必要です。
しかし近年のインプラントの成分は大半がチタン合金です。
チタンは金属の中でもアレルギーを起こしにくい金属ですが、それでもまれにアレルギー反応を起こすこともあるといわれています。
チタン自体へのアレルギーの有無は事前に皮膚科でパッチテストを受けることで回避することができます。
ただし大半のインプラントがチタンに他の金属を混ぜた合金であるため、
金属アレルギーをお持ちの方は完璧を期すならインプラントを避けるか、そえともリスクとしてお考えになられるかだと思います。
チタンに混ぜる微量の金属の種類や量は企業秘密であるため多くのメーカーは自社の成分を公表しないからです。

医科のMRI検査でインプラントを問題視するケースを耳にします。
医科の検査であるMRIは金属があると画像に乱れが起こることがあります。
強い磁場を作るため時計や指輪、入れ歯などの金属類を外すことが求められます。

強い磁場を作るMRIに鉄などの磁性体の金属が引き寄せられて機械の損傷が起こるためです。
しかしインプラントの主成分であるチタンは非磁性体であるため磁場には影響されません。
この意味では外す必要がない上に、そもそも骨とくっついているので外れる心配がありません。

金属に反応してMRI画像が乱れる件に関してはインプラントにも起こります。
しかし同じ金属類であり取り外しのできない銀歯や、骨折の際の金属プレートやボルトと同じではないでしょうか。
インプラントの必要性とその大きさから問題視するのは不適当ではないかと考えています。

インプラント治療は痛い

痛い3
手術だということや、治療術式を見ると「さぞかし痛いだろうな」と思われているかもしれません。
また身の回りの方からインプラント治療後に大変だったと聞かされたことがあるかもしれません。
麻酔で治療中は無痛を実現できていても、インプラント治療に限らず抜歯など外科治療には術後には大なり小なりの痛みや不快感が伴います。
私自身も痛みには敏感な方ですから、誰でもできるだけ避けたい思いは本当によく理解できます。
そのため東洋医学を取り入れたり色々な工夫を長年してきました。しかし現在はそれも必要なくなりました。
かなり痛みのコントロールができるようになったからです。
無痛ではありませんが、日常生活上の支障がない程度に抑えられていますので、
別の場所の2度目のインプラントが痛みのために中止になった記憶がありません。
インプラント治療は痛い?

インプラント治療は危険

10年後レントゲン
報道や身の回りの方から術後のトラブルを耳にすると危険なものと感じておられるかもしれません。
報道された件を見ると、基本に忠実に、そして慎重に行っていれば避けられたように私は感じます。
すなわち人的努力でなくせるリスクだと思えるのです。

また先に述べたように外科治療にはリスクがあります。
繰り返しになりますが問題なのは得られる利益と比較してそのリスクの大きさや起きうる頻度ではないかと考えています。
インプラント治療は世界的に30年以上の歴史があり日本でも300万人ほどの実績(厚生労働省調査)があり、近年は治療術式も確立されており年々進化を続けています。
実績が多いことは成功例が圧倒的に多いことが背景にあると考えられます。
リスク管理を徹底し、慎重に計画と治療を行うことでお互いに不幸なリスクはかなりコントロールできると私は自分の臨床から感じています。

失ったものは補充する必要がある

これまでお話ししてきたようにインプラントに対する反対意見も存在します。
そしてインプラントは天然の歯を超えるものでもありません。
症例によってはインプラント以外の選択肢をご提案することもあります。
しかしインプラントが必要なケースがあると考えています。
それはどのような状況なのかお話ししたいと思います。

人の身体には不要なものは一つもなく、小さな歯1本と言えども失ったものは何らかの方法で補充をする必要があります。
失ったものが担っていた機能は他が肩代わりすることになり、それが何年何十年と続けば他に問題が出てくる可能性が高いからです。
補充する方法としては入れ歯、ブリッジ、インプラントがあります。
そのまま放置する、入れ歯やブリッジを入れる方法よりインプラントが有利な一面があることをご存じでしょうか。
それは次の3点です。
1)歯を失った後に生きるための咀嚼機能を入れ歯やブリッジより有利に維持できること
2)上下の歯同士でかみ合わせを維持していたものが歯を失うことで段々崩れていくのを阻止できること
3)結果的に他の歯にかかる負担を軽減して他の歯の寿命を長くできること

咬合支持能力が高い

歯のかみ合わせ
先に「2)上下の歯同士でかみ合わせを維持していたものが歯を失うことで段々崩れていくのを阻止できること」と述べましたが、
インプラントの持つ最大の利点と言っても過言ではない特徴のため詳しくご説明します。
ここで言うかみ合わせは上下の歯が接触する表面的な物ではなく、咬合支持と呼ばれる噛む力を支える能力の強さです。

歯がなくなるとその歯が負担していた噛む力などの負担を他の歯が代わりに担わなくてはなりません。
その無理が長期化すると歯自体のトラブルや歯を支える歯茎と骨に負担が蓄積していき、他の歯が疲弊していきます。
具体的には歯が欠ける、虫歯になる、歯周病になるという形で起こります。
こうした病気は細菌によって起きますが、慢性的な余分な力で加速されるのです。
歯を失ってもさして日常生活に困らなくても、水面下でこの進行が進んでおり、あるきっかけでそれが表面化することは珍しくありません。
表面化した時点であわてて対処しても、弱体化した歯は元には戻らず、延命治療が主になります。

咬合支持が弱くなると残った歯に負担がかかり、どんどん歯が弱体化し失っていく姿を長年の臨床で嫌と言うほど見てきました。
ところがインプラントが加わることで噛む力を分散し歯の弱体化を避けることが可能になります。
どうしてインプラントにそんな力があるかというと、歯と同じように硬い骨の中にしっかりと植わってびくともしない強さがあるからです。
まだ他の歯の弱体化が起きていない今だからこそ、インプラントによる援軍が大切なのです。

物事の崩壊は最初は小さな取るに足りないとも思える事から始まります。
軽んじていると事は次第に大きくなり、最後には雪崩をうつが如く一気に崩壊していきます。
事の大きさに気づいた時はすでに遅く、後戻りできず困惑しますが後の祭りです。
まださして困っていない今だからこそ、最初の1歩の小さなほころびを解消するだけで済むのです。
坂道で転がり始めたばかりの石は押しとどめることができても、転がって加速度がついた石は止めることができないことに似ています。

最後に

ここまでお話ししてきて私はインプラント賛成論者とお思いの方もいらっしゃるでしょう。
しかし私は積極的な賛成論者ではありません。賛成論者であれば20余年の臨床でもっと実施本数が多いと思います。
そして反対論者でもありません。私は中立です。

私の目的は目の前にいらっしゃる患者さんの持つお困りや将来の不安を少しでも解消することであって、
インプラントを入れることが目的ではないからです。
その方のお困りや不安を解消する手段としてインプラントが最適であればそうご紹介をしますし、
お話ししたインプラントのデメリットがその方の中で大きい、
また他の選択肢で十分お困り等を解消できるのであれば両者を比較しながらご説明するスタンスをとっています。
今回この記事を書いた理由は、正確性に欠ける話が散見されるため、偏った見方をしていただきたくない思いからです。
ご自身の治療方法を決める手助けになればと考えました。

インプラント実績だけが話題にあがりますが、手術だけでなく治療と治療後にどういう考え方で診療を行っているかが重要だと考えています。
日々進歩し変わっていくインプラントに関する知識や治療にたいして継続的なアップデートも必要です。
インプラントを20年余りで何百本かをお入れしてきましたが、インプラント自体が折れたケースが2本、インプラント周囲炎で失ったのが数本記憶にあります。
天然の歯を超えるものでも完璧なものでもないと考えています。その一方で多くの方々の笑顔も拝見してきました。

当院では定期検診とメンテナンスに力を入れているため、インプラント治療後10年以上経過した方々とお会いすることがよくあります。
体験者の方々の感想は大変勉強になります。
その時この世にインプラントがなかったら今どうなっていたのかとお話しすることがありますが、患者さんからは「入れ歯は考えられない」など肯定的ですし、
症例として今お口の中がどうなっているのかを歯科医として想像すると、当時もインプラントが必要だと考えたケースであったため、あの時インプラントを入れておいてよかったと感じています。
これもメリット・デメリットを併せ持つインプラントの一面です。

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