歯周病
歯周病の名前は聞いたことあるけど自分の問題ではないと思っていた方が、ある日突然歯周病と診断されて困惑される場面によく遭遇します。今から思えば以前に歯茎から出血したことや時々異和感があったことを思い出され、口の中を後回しにして放置してきたことに気づかれるケースが後を絶ちません。
歯周病は沈黙の病気と言われており、多くは無症状で進行します。異変に気付いた時には時すでに遅し、失った骨は元には戻らず、最終的には歯を失います。それもお口の中全体の病気なので、被害はその歯一本とは限らず他の歯も病気に侵されています。放っておけば歯を失う一方となる、歯周病とはそんな怖い病気です。成人の歯を失う80%が歯周病であり、80歳でご自分の歯が残っている本数は28本中平均17本だけなのが現状です。
こんな歯周病にも必ず前兆があります。それをいかに見逃さずに対策を取るか、病気になったとしてもいかに悪化する前に治療をするか、それがとても大切なのです。そんな歯周病についてお話ししたいと思います。
目次
- 歯周病(歯肉炎・歯周炎)とは
- 歯周病と全身疾患の関係
- 歯周病の原因とは
- 歯周病と健康度チェック
- 歯周病の進行状況と治療法
- 歯肉炎
- 軽度歯周炎
- 中等度歯周炎
- 重度歯周炎
- 歯石除去とクリーニングとは
- 歯周病は治るのか
- ロイテリ菌で歯周病と闘う新しい方法
歯周病(歯肉炎・歯周炎)とは
歯周病は歯と歯茎の境目(歯周ポケット)が歯周病菌に感染することで発症します。歯茎から出血する→歯茎が腫れる→歯を支える骨が溶ける→歯がグラグラする→歯を支えられなくなり歯が抜ける、といった経過をたどる歯茎と骨の病気です。放っておいて自然に治ることはなく、薬で一時的に症状の緩和ができても病気そのものは治りません。
歯周病の怖いところは、歯が抜けて終わりにならないところです。抜けた場所でまた嚙むために入れ歯やブシッジ、インプラントを入れなければなりません。しかし歯周病は骨を溶かし痩せさせるため、程度によっては治療が出来ない、もしくは治療後の経過が良くないことがあります。
今度は歯が抜けないまでも骨が一部溶けたため歯を支えきれずに歯がグラグラしている場合、仮にそれ以上の進行を治療で阻止できたとしても溶けた骨は基本的には元に戻らないため、昔の何でも噛める丈夫な歯にはなりません。
次にもっと軽症の歯茎が腫れて間もないころに治療した場合は、まだ骨の破壊には至っておらず治療で腫れや出血、口臭などの症状はなくなります。歯肉炎のレベルであれば何も失うことなく健康な状態に戻れます。
このように歯周病はいつ気が付くか、いつ治療を始めるかでその後の結果が大きく変わりますので、歯周病の有無やその程度を知ることは非常に大切なことなのです。
口の中は唾液という水分があり、食物という栄養素が運ばれ、体温という適度な温度があります。そのため口の中には700種類、1000億もの細菌が生息しています。つまり口の中は歯周病菌にとって非常に住みやすく繁殖に適した環境です。そのため歯肉に何らかの異常がある人は人口の70%、特に中高年者の80%が歯周病にかかっています。ご高齢の方の病気と思われがちですが、20歳以下でも軽度の歯周病になっている人の割合は6割にもなります。罹患率でみると国民病と言えるでしょう。
50歳から急に歯を失っていき80歳で20本以上の自分の歯を持っている人はわずか15.3%しかなく、さらに異常がある人のたった1.2%しか治療を受けていまいません。 歯周病にかかっていることに気付いていない人や気付いていても治療を受けていない人がいかに多いか、そしてその結果いかに多くの人が歯を失っていることがわかります。この実態からみれば、柔らかいものを好んで食べるのは年齢だけではないのではないかと思えます。
「痛みなどの症状がないこと」は「健康である」ことと同じではないので注意が必要です。
一生硬い物でも何でも好きなものを食べて豊かな食生活を送るためには歯周病は避けて通れない病気です。逆から見れば、歯周病にかからなければ一生快適な食生活を送れる可能性が高くなるとも言うことができます。
歯茎から血が出る、硬い物を噛んだ時に痛い、歯がぐらぐらするというような症状が出ていたら既に歯周病がかなり進行している可能性があります。歯周病の進行を止める、予防することは可能ですので、歯周病に関する正しい知識を持ち、歯科医院でしっかり治療をお受けになられることをお勧めします。
歯周病と全身疾患の関係
歯周病菌は口の中だけに留まらず全身に広がり、糖尿病や心臓・血管系疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患、骨粗しょう症や低体重児出産や早産とも関連があるともいわれています。歯周病原因菌であるジンジバリス菌の出す歯周組織破壊酵素が炎症反応を引き起こし、ジンジバリス菌がアルツハイマー型認知症の増悪因子となり学習と記憶能の低下に関与する可能性も示唆されています。 歯周病と全身疾患との関りについては、「歯周病と糖尿病の関係」「歯周病と脳梗塞・心筋梗塞(心臓病)」「歯周病と肥満の関係」をご覧ください。
歯周病の原因とは
ではなぜ歯周病が起きるのでしょうか?その答えは細菌です。
歯磨き不足、免疫低下やお口の中・体の環境変化などをきっかけに、歯周病菌が繁殖し歯の表面や歯と歯茎の境目にある歯周ポケット内に歯垢やプラークが付着します。
プラークは細菌が外部から身を守るために作り出したもので、不溶性グルカンという水に溶けない糖で出来ています。そのため厄介なことに水でゆすいでも落ちず、口の中を消毒してもプラーク内の細菌は守られて死滅せずプラーク内部でどんどん増殖していきます。プラーク(歯垢)は食べかすや単純な汚れではなく、物理的に擦らないと除去できません。川の中の石や排水溝の中がヌルヌルしているのもプラークなのです。
そのプラークの量が増えたり、時間が経ち熟成されていくと歯周病菌が増殖します。増殖した歯周病菌が出す毒素や、歯周病菌と闘うために白血球が出す活性酸素などによって周辺の組織が破壊されたり炎症が起こります。これが歯周病の始まりで、この状態が悪化すれば歯周病がさらに進行することになります。
たった一滴の唾液の中にも数億の細菌がいます。インフルエンザウイルスを空気中から失くすことができないように無菌的な口の中を作ることはできません。従っていかに歯周病菌の数を減らすか、歯種病菌に打ち勝つ免疫力を高めていくかが大切になってきます。
歯周病と健康度チェック
まずはご自分が歯周病なのかどうか調べてみましょう。
日本臨床歯周病学会が出している歯周病のセルフチェックがあります。
皆さんはいくつ当てはまりますか?
- 朝起きたとき、口の中がネバネバする。
- ブラッシング時に出血する。
- 口臭が気になる。
- 歯肉がむずがゆい、痛い。
- 歯肉が赤く腫れている。(健康的な歯肉はピンク色で引き締まっている)
- かたい物が噛みにくい。
- 歯が長くなったような気がする。
- 前歯が出っ歯になったり、歯と歯の間に隙間がでてきた。食物が挟まる。
3つ当てはまる
歯周病の可能性があります。歯周病の検査を受けることをお勧めします。
6つあてはまる
歯周病が進行している可能性があります。
全てあてはまる
歯周病の症状がかなり進んでいます。
あなたはいくつ当てはまりましたか?疑問に思ったことや不安に思ったことがあればお気軽にご相談下さい。
歯周病の進行状況と治療法
重度の歯周病の人と健康な人の口の中に生息する細菌の種類や量が違うことや、免疫力や唾液の質と量などの生体の個人差、ストレスや生活状況などの環境の違い等が発病や進行に関わっています。歯周病にも軽度から重度までいくつか進行度合いによる分類があります。
歯肉炎
歯茎の一部が炎症を起こして赤みを帯びています。
歯磨きなどで歯茎から血が出やすい程度で、自覚症状はほとんどありません。歯茎の出血は炎症があるサインですが、人は手足の出血には敏感でも口の中の出血には鈍感な傾向があることが残念です。この段階で治療ができれば完治しこの下の歯周炎に進行することがないため、本来は一番重要な関門なのです。
治療法 | ご自宅での適切な歯磨き、歯科医院で歯のクリーニング、歯石除去で完治します。 |
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軽度歯周炎
歯周ポケット(歯と歯茎の間の溝)が2mm~4mm程度の深さです。この段階から歯を支える骨が少しずつ溶けてきます。
歯茎の出血や腫れが見られますが他の症状がないことが多く、多くの人が歯周病だと自覚できずに放置してしまう傾向にあります。噛みしめる癖や歯ぎしりも悪影響があります。できればこの段階で治療を受けられれば被害は最小限で済み、さらなる進行を止められて歯の寿命を長くできます。
治療法 | ご自宅での適切な歯磨き、歯科医院での歯と根の上部の歯石とプラーク(歯垢)除去、歯に過大な力がかかっている場合は噛み合わせ治療、ピッタリ歯と合っていない人工の歯の再製作などが必要です。歯と歯の間に物が詰まりやすい場合も治療が必要です。 |
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中等度歯周炎
歯周ポケットが4mm~6mm程度まで深くなり、歯を支える骨が溶かされて歯茎が下がった状態です。
歯茎がぶよぶよしたり、濃が出たりします。疲労時など免疫低下が起こると急性発作を起こして、歯茎が腫れる・痛むなどの症状が出ることもあります。この段階になると歯が少しぐらぐらする、時折噛むと違和感がする、口臭がきつくなる等の症状が出てきます。
治療法 | 軽度歯周炎とほぼ同じです。 症状によっては溶けてしまった骨の一部を回復するための外科手術を行うこともあります。 |
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重度歯周炎
歯周ポケットが6mm以上に広がり、歯の骨が大きく溶けてしまっている状態です。歯茎が下がり、歯の根がかなり露出するので歯が長くなったように見えます。
ちょっとしたことで歯茎から血が出たり、白い濃が出る、または歯茎が腫れたり痛むこともあります。歯のぐらつきが顕著になって硬いものが噛みにくい、噛むと痛い等の症状があります。
治療法 | 中等度歯周炎とほぼ同じです。 しかし症状の改善や機能回復が難しく、日常生活に支障をきたす場合は残念ながら抜歯することになります。 |
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歯石除去とクリーニングとは
歯周病菌の絶対数を減少させてお口の中の環境をよくするために、歯の付け根付近にこびりついた歯石(上図の茶色くなった部分)とプラークをスケーラーと呼ばれる器具や超音波装置で取り除きます。同時に歯周ポケット内部を洗浄・除菌を行います。
その後プラークや歯石が付きにくくする目的で、歯と歯の付け根を研磨剤を使って滑沢に磨いていきます。この治療は全ての進行状況で行う歯周病治療の基本となります。
こうしたお口の中のいい環境を維持していくには、日々の歯磨きなどの丁寧な清掃が必要です。これが歯周病治療と予防はお互いの二人三脚だという理由です。歯周病と虫歯予防と治療に欠かせない毎日の歯磨きに関しては「正しい歯磨きの基本やコツ」をご覧ください。
歯周病治療にはここでお話しした一般的な治療方法以外にもいくつかの方法があります。 詳細は「歯周病治療とは」をご覧ください。
歯周病は治るのか
軽度までの歯周病はお互いの努力によって完治することが可能です。またそれ以上進行してしまった歯周病は改善や進行をコントロールすることが可能です。歯周病治療を成功させるには、早期発見と歯磨きなどのセルフケアの質を高めること、そしてご自身の免疫力を高める、口の中の歯周病菌などの悪玉菌を少なくすることが重要です。
毎日のご自宅での適切な歯磨きだけではなく、歯科医院でのメインテナンスを継続させることで歯周病の症状は改善されていきます。ストレスや栄養不足、喫煙などの生活習慣を改善することも大切です。糖尿病などで免疫力が落ちると歯周病が発症、悪化しやすくなりますのでご注意ください。
ロイテリ菌で歯周病と闘う新しい方法
先にお話ししたように口の中は無数の細菌類が生息しています。その細菌には歯周病菌や虫歯菌などの悪玉菌も含まれています。歯周病菌と闘うには日々の歯磨きなどで細菌の絶対数を減らすと共に、免疫力アップを図り口の中の菌バランスを有利にすることが大切です。そこでお勧めするのがプロバイオティクスを用いたバクテリアセラピーです。
プロバイオティクスである乳酸菌の仲間、ロイテリ菌が腸内環境を改善して免疫力をアップし、さらに歯周病と虫歯の抑制に効果があることが近年わかりました。腸内だけでなく口の中の善玉菌を優位にして悪玉菌を少なくする効果があり、有利な菌バランスを獲得できます。当院ではロイテリ菌が含まれたタブレットやヨーグルトをお勧めしておりますが、ロイテリ菌の菌種によって効果が異なりますのでご注意ください。 詳しくは「ロイテリ菌とは」「ロイテリ菌(善玉菌)で悪玉菌と闘う」「ロイテリ菌と虫歯・歯周病」をご覧ください。
ここまで歯周病についてお話ししてきましたが、ご理解いただけたでしょうか。
無用に怖がる必要はありませんし、眼をそむけるのも将来のためにお勧めできません。正しく理解され、適切な治療と予防をされて末永くご自身の歯で食事ができることを祈っております。私たちはそのお手伝いをさせていただきたいと思っています。