銀歯が気になる

近年銀歯の見た目を嫌ってセラミックなど白い歯をご希望になられる方が増えています。
しかし銀歯の問題は見た目の表面的な問題だけでないことをご存じでしょうか?
銀歯についてその本当の姿をご紹介したいと思います。

銀歯とは

銀歯
銀歯は保険で12%金銀パラジウム合金を用いて作られたかぶせ物や詰め物の俗称です。
虫歯が大きくプラスチックでは強度が不足する場合、歯の形を大きく回復する必要がある場合、神経がなくなって歯自体の強度が弱くなった場合など、主に強度を求めるケースに用いられます。
主成分は銀が最も多く、次いでパラジウム、金、銅、亜鉛やその他微量元素です。
銀歯の歴史は古く、戦後物資が乏しい1961年に保険の治療に使われるようになりました。
採用された当時から安全性等の問題が指摘されたものの戦後の物資不足から後に他の物(金合金等)に置き換わる代用合金として採用されました。
しかし時代が変わってもそのまま今日まで使われ続けています。

世界的に見ても使用されている国は少なくなってきており、歯科治療先進国では金属を使うとしてもパラジウムを含まない金属を推奨しています。
化学的に安定して見た目も良く虫歯になりにくいセラミックやジルコニアなど、金属を使わない治療が広く行われるようになっている今日、こと保険の治療で使う銀歯において日本は世界的に見て後進国と言わざるを得ません。

メリットは保険適用のため3割自己負担となるため治療の費用を抑えられることです。
しかし歯科医師が自分の歯を治そうと思った時に、様々な理由から銀歯を積極的に選択しません。
その理由についてお話ししたいと思います。

銀歯のリスク・審美面

治療前
赤やオレンジ、ピンク等は暖色と呼ばれ、暖かさを感じます。
一方青系の色は寒色と呼ばれ寒さや寂しさを感じ、銀歯も寒色の範疇に入ります。
その色合いにより受ける印象も変わってきます。
服や髪、時計やネックレスなどの装飾品、化粧など日々生活する中で色というものを意識しない日は無いと思います。
歯の色も同様で、白く綺麗な歯は健康の象徴です。
一方銀歯は寒色系の色調であるため人工物であるということが一目でわかり、健康的ではなく、自然に見えず、また美しくありません。

銀歯のリスク・虫歯の再発

欧米に比べてかなり安く設定されている日本の保険の銀歯は国が定めた料金の中で作成しなければならない制約があります。
レアメタルであるパラジウムや、貴金属である金などは年々需要が増えているので価格が高騰し続けており、益々採算性が悪化し続けています。
また私たちの口に入る銀歯を作る技工士も、保険料金内に収まる様に作らなければ成り立たないため一度に多くの銀歯を作らなければなりません。
そのため精度、適合性、かみ合わせなどをある程度犠牲にせざるを得ないのが実情です。これが一時問題になった中国製技工が生まれる背景です。

適合性や精度が悪ければ当然歯と銀歯の間に隙間が生じ、治した所が再び虫歯になる二次う蝕が非常に起こりやすくなります。
我々歯科医師が日常多くの治療を行っている中で、多くを占めるのが二次う蝕等による治療のやり直しです。
治療は繰り返せばその都度ご自身の歯を削ることになり、その分歯の寿命が短くなってしまいます。
ご自身の治療経験を思い出してみてください。
銀歯を入れた歯を何度か再治療されてはいらっしゃらないでしょうか?
今は失くしてしまった歯は、何度も再治療した結果ではないでしょうか?
一度の治療でその先の病気の再発を止められていないことが問題だと私は考えています。

銀歯のリスク・かみ合わせの変化

人の歯は長年の咀嚼などにより摩耗して日々変化をしています。
全ての歯28本が同じ材質であればお口全体として同じ変化を起こし調和は取れるのですが、一部の歯に人工物が入ればこの調和が崩れてしまいます。
ですから治療に用いる材質は可能な限り天然の歯に近い変化を起こす硬さが必要です。
しかし銀歯は硬い金属であるためこの調和を大きく崩す原因になります。
歯はすり減って低くなっても硬い銀歯はすり減らないため相対的に高い歯になり、他の歯より強い力がかかりその歯に負担をかけた結果、虫歯や歯周病、歯のヒビ割れなど歯の寿命にはマイナスに働きます。また硬いため噛み合う自分の歯を異常に摩耗させることもあります。
要約すると、銀歯は硬いためかみ合わせが狂いやすい傾向にあるのです。

銀歯のリスク・金属アレルギー

日本人の10人に1人が金属アレルギーを発症しています。
そしてパラジウムについては程度に差はありますが、約半数の人にアレルギー反応があると言われています。
下のグラフからは銀歯(12%金銀パラジウム合金)に含まれているパラジウムはアレルギーを起こしやすい金属の5番目になっていますし、7番目の銅も含まれています。
銀歯は口の中に入るため、常に唾液や、飲食物による水分や酸、アルカリにさらされていて、非常に金属が溶けだしやすい状況にあります。
溶けた金属がイオンとなり、たんぱく質と結びついて体に異物として認識されアレルギー反応が起きます。
また口の中に二種類以上の金属がある場合、それぞれが電極になりガルバニー電流とよばれる電気が流れます。その過程でさらに金属がイオンとして溶けだします。
アクセサリーなどでアレルギーがより起こりやすくなる条件として「汗をかいた時」があります。
口の中は常に唾液や飲み物で水分が豊富で酸やアルカリ性の食品も摂取しますから同じような状況なので、銀歯は金属アレルギーをより起こしやすいと言えます。
メタルフリーやパラジウムフリーが世界的に進んでいる今日、お口の中に使う材料についてはよく考える必要があると言えるでしょう。

金属アレルギー金属別発生頻度

最も多くを占める水俣病で有名な水銀は歯科の詰め物のアマルガムの材料ですし、ニッケル・コバルト・クロムは入れ歯に、錫は歯の土台に使われる銀合金に、パラジウムと銅は銀歯に含まれています。これらの金属の合計、実に91%が保険の材料であることがこのグラフから読み取れます。

銀歯以外の選択肢・コンポジットレジン

金属を含まない材料の一つにプラスチックであるコンポジットレジンやハイブリッドセラミックスがあります。
虫歯の治療やダイレクトボンディング等で使われ、適用範囲内であれば歯を削る量を少なくすることができることが最大のメリットで、材料費が安く安価であることも利点です。
歯と同系色のため前歯など見栄えに影響するところの治療に適しています。
デメリットはプラスチックは水を吸う性質があるため、年数が経つと黄ばんだ色に変色するほか、金属やセラミックなどと比べると強度が低いため、比較的小さい虫歯にしか用いることができない点です。
また材料自体が柔らかいことから、使っているとすり減ってかみ合わせが狂ってしまう危険性があるため、噛む力が直接かかるところに用いるべきではないと当医院は考えています。

銀歯以外の選択肢・セラミックとジルコニア


近年自然感を重視される方々が多く、セラミックやジルコニアは金属を使わないメタルフリー治療の代表格といえます。
セラミックは化学的に非常に安定した材質で、腐食せず、金属のように口の中に溶けださないため、健康への悪影響やアレルギーの心配がありません。
見た目も天然の歯と比べてもどちらが人工物か区別がつかないほど綺麗です。
また必要十分な強度があり、プラスチックのようにすり減ってかみ合わせが狂う心配もありません。
精度や適合性も良く、二次う蝕(虫歯の再発)のリスクも銀歯に比べて劇的に下がります。
歯を長持ちさせたい方や、見た目を元のご自身の歯のように取り戻されたい方に適しています。
一方で治療自体とセラミックの歯作製に精密性が要求されるため時間と材料に妥協が許されず、さらに見た目が天然の歯と見分けがつかない美しさを追求するプロセスが保険の範囲内に収まらないため、銀歯に比べると費用が高額になることがデメリットになります。治療期間も銀歯より1週間程度長くなります。
またご自身の歯を壊してしまうような歯ぎしりや噛みしめなどの強い力がかかる癖をお持ちの方はセラミックが割れてしまう可能性があり、かみ合わせの調整を綿密に行う必要があります。
こうした癖をお持ちの方にはどちらかといえばセラミックよりジルコニア、色合いは劣りますが金合金が適していると考えています。

最後に

当医院では歯のそれぞれの状況に合わせて、適した材料や治療法を複数提示し、治療法や材料ごとのメリットとデメリットなどをしっかり説明をさせていただいております。
また患者さんの今の状況や今後予想されるトラブルなどを加味し、出来る限り患者さんの歯や、詰め物やかぶせ物が長持ちするように心がけて診療に当たっております。

「こんなことを聞いたらいけないんじゃないか」とお考えになる必要は一切ありません。
ご納得の障害になりますので、どんな些細なことでも疑問や不安などはお気軽にご相談ください。
相談できる時間をしっかりと取らせていただいております。
治療法について納得し理解して選んだものであれば、その時に出来るベストになるはずです。

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