歯周病の進行と症状、治療法と予防法
歯周病を知ろう
歯周病と戦うには相手を知らなくてはなりません。歯周病とはどのような病気かお話ししたいと思います。
歯周病とは、細菌感染によって歯の周りの歯茎に炎症が起こり、歯を支える骨が溶け、最後には歯が抜け落ちてしまう病気です。
日本人成人の約80%がかかっており、成人の歯を失くす人の3人に2人は歯周病が原因です。この意味では虫歯以上に怖い病気です。
また近年の研究で歯を失くす以外にも、糖尿病、心疾患、呼吸器疾患、早産、認知症などにも歯周病が関連していることがわかってきました。
これだけ多くの人がかかり、全身への影響があるとなれば決して他人ごとではありません。
健康長寿の面からも歯周病を知り、対処法を実践することはとても大切なのです。
歯周病のセルフチェック
以下の項目にいくつ該当しますか?
・朝起きたとき、口の中がネバネバする
・ブラッシング時に出血する
・口臭が気になる
・歯肉がむずがゆい、痛い
・歯肉が赤く腫れている(健康的な歯肉はピンク色で引き締まっている)
・かたい物が噛みにくい
・歯が長くなったような気がする
・前歯が出っ歯になったり、歯と歯の間に隙間がでてきた。食物が挟まる
3つ当てはまる:歯周病の可能性があります。歯周病の検査を受けることをお勧めします
6つあてはまる:歯周病が進行している可能性があります
全てあてはまる:歯周病の症状がかなり進んでいます
歯周病の検査
歯周病であるか否か、またその進行度合いを調べる検査です。
歯茎と歯の境目の溝(ポケット)の深さがどの程度あるかを調べることで、歯周病により破壊された度合いがわかります。
1本の歯の周囲を6か所、目盛りの付いた細い針のような器具で計りお口全体の歯の歯周病状態を把握する検査です。
一般的には1本の歯の1~6か所を計測しますが、当院では6か所計ることでその歯が悪いのではなく、その歯のどこが悪いかがわかります。
歯が28本あれば168か所を調べるためある程度の時間がかかりますが、現状の把握と治療方針の決定、治療結果の確認には大変重要な検査です。
歯周ポケットを検査する際に歯茎からの出血の有無や膿の有無、歯のぐらつきも調べます。
またレントゲン写真を撮って歯周病により溶けた骨の状態も調べます。
下の画像のような表に初診時、初期治療後などステップ毎に結果を保存し、経時的に比較することで治療の進行度合いや改善度合いを確認します。
歯周病の進行と治療
歯と歯茎(歯肉)の境目の掃除が不十分になると細菌を多く含むプラーク(歯垢)が付着します。その細菌(歯周病菌)の出す毒素、歯周病菌をやっつけようとして免疫細胞である白血球から出る活性酸素などによって歯茎が炎症を起こします。
またプラーク(歯垢)は唾液中のリン酸やカスルシウムにより石灰化して細菌の巣ともいえる硬い歯石になります。歯周病予防や治療で歯石を取り除くのはこれが理由です。
やがてプラーク(歯垢)や歯石を起点として炎症が拡大していくと、図のように歯周病が悪化していきます。
歯肉炎
重症の方でも最初は初期の歯肉炎から始まります。
歯と歯茎の境目にプラーク(歯垢)が溜まり、歯茎(歯肉)が赤みを帯び、多少腫れぼったくなります。
歯磨きの時にたまに出血がするなどの症状が出てきます。
この段階で対処しておけば歯周病の進行を止められるだけでなく、元の健全な状態に戻ることができる最後の境界線です。
この関所を超えてしまうと後戻りは難しく、頑張って現状維持、悪くして歯を失う流れに乗ってしまいます。
しかし症状が明確でなく自覚に乏しいため、放置されるケースが多いのが実情です。なんとかして気づいて欲しい、定期検診で早期に発見したい、歯科医の思いです。
<治療法>
・ご自宅での適切な歯磨き
・歯科医院での歯茎付近の歯石やプラーク(歯垢)除去などのクリーニング
軽度歯周炎
前の項目である歯肉炎の「肉」が歯周炎の「周」に変ったのがお判りでしょうか。先ほどの関所を超えてしまったため病名が変ったのです。
炎症が「肉」歯茎(歯肉)では収まらず、「歯の周り」歯を支える骨にまで波及し骨が溶け始めています。
しかし見た目は歯肉炎とあまり変わらず、強いて言えば歯茎の腫れや出血が大きくなる程度で見過ごされやすい状態です。
なんとかここで立ち止まっていただきたいのですが、まだ痛みが出ることは少ないため放置されるケースが多いのが残念です。
<治療法>
・ご自宅での適切な歯磨き
・歯科医院での歯茎付近とポケット内の歯石やプラーク(歯垢)除去などのクリーニング
中等度歯周炎
さらに炎症が進行拡大した結果、さらに骨が溶けて歯に軽いぐらつき、歯茎(歯肉)が赤く腫れ出血が頻繁に出るようになります。
噛むと違和感を覚えたり、歯周病特有の口臭や不快感、時々急性発作を起こして化膿や腫れと熱感、痛みが出ることがあります。
<治療法>
・ご自宅での適切な歯磨き
・歯科医院での歯茎付近とポケット内の歯石やプラーク(歯垢)除去などのクリーニング
・歯周外科手術
・口の中の除菌治療(3DS)
重度歯周炎
もっと炎症が拡大進行した状態で、歯を支える骨がかなり少なくなるため歯のぐらつきは顕著になり、また歯茎(歯肉)は赤く腫れ、出血などの化膿状態は中等度より多くなります。
この段階まで歯周病が進行すると誰にでも異常に気付くことができますが、溶けてしまった骨が回復できないため、よくて多少の延命、悪ければ歯を失うことになります。
<治療法>
・ご自宅での適切な歯磨き
・歯科医院での歯茎付近とポケット内の歯石やプラーク(歯垢)除去などのクリーニング
・経過が芳しくない場合には抜歯
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歯周病の予防
1.毎日の丁寧な歯磨き
歯周病の原因は細菌です。原因を失くす、少なくすることで歯周病予防や治療に大変有効に働きます。
細菌自体は小さく目では見えませんが、細菌の塊であるプラークやプラークが付着する歯石は目で見ることができます。
一度歯科医院でプラークを染め出してみてください。
しっかり磨いたつもりでも意外と多くのプラークが残っていたり、思わぬ場所にプラークがついていることがお分かりいただけるでしょう。
ご自分に合った磨き方をしておられる方は意外と少なく、一度歯科医院で確認されることをお勧めいたします。
ご自分の癖を修正することで、虫歯や歯周病と無縁の生活を送れるかもしれません。
・正しい歯磨きの基本やコツ
2.定期的(6か月)な歯石除去
普段丁寧に磨いていても毎日100点をとり続けることはできません。
そのためどうしても歯石がついてしまいます。
歯石にはプラーク(細菌の塊)が付着しやすく、歯周病予防の大敵です。
ついてしまった歯石を定期的に取り除いておくことをお勧めします。
定期検診では歯と歯茎の異常がないか確認し、歯石を取ることができます。
定期検診は保険のルールで6か月毎となっておりますので、その間の3か月目にメンテナンス(クリーニング)をお勧めしております。
・定期検診
・クリーニングの種類、費用や頻度について
3.かみ合わせの問題点の解消
一部の歯に過大な力がかかるかみ合わせをお持ちの方、食いしばりや噛みしめ、歯ぎしりなどの癖をお持ちの方は歯周病に要注意です。
歯の噛む力の負担が強すぎるからです。
この場合には歯科矯正や人工の歯、かみ合わせ調整でかみ合わせを修正する方法や、そうした癖を軽減する取り組みが行われています。
・噛み合わせ
4.不適切な詰め物や被せ物の入れ替え
歯とピッタリ合っていない詰め物や被せ物との隙間にプラークが残ることで虫歯だけでなく歯周病にも不利に働きます。
その隙間には歯ブラシの毛先が入り込まず清掃できないばかりか、それらの病気が進行の一途をたどることがあります。
こうしたご本人の努力で解消できない部分は詰め物や被せ物を作り直してプラークが残らないようにされることが一番の解決方法です。
また歯と歯の間に食べ物がつまりやすい場所も要注意です。
・詰め物・被せ物の種類
5.生活習慣の見直し
不規則な生活や食生活や食べ方、睡眠不足、食事内容(栄養素)の偏り、過度の緊張状態の持続(ストレス)など体の免疫力を低下させるものをできるところから排除していきましょう。
抗酸化作用のあるビタミンCや血行促進作用のあるビタミンEなど、食事の内容にも気を配ってみてください。
6.糖尿病など歯周病と関連する疾患の治療
歯周病と同じく生活習慣病である糖尿病や肥満は歯周病を発症しやすく、また歯周病が血糖値をコントロールするインスリンの働きを悪くするため、糖尿病を悪化させることがわかっています。
そして歯周病は心疾患や動脈硬化、骨粗鬆症、誤嚥性肺炎とも関連があり、近年の研究では認知症との関連も疑われています。
・歯周病と糖尿病の関係
・歯周病と脳梗塞・心筋梗塞(心臓病)
・歯周病と肥満の関係
・妊娠時の歯周病治療
7.禁煙
たばこに含まれるニコチンは歯周病菌の増殖を起こし、また喫煙により局所の血流不良や免疫力低下を起こすため禁煙されることをお勧めします。
歯周病で手遅れになる前に
歯周病初期はほとんど無症状で、中期段階でも明確な自覚症状が乏しく、重症化するまでは痛まないため受診が遅れる傾向にありまます。
そのためぜひお勧めしたい事柄が4つあります。
1.歯を磨くだけでなく歯と歯茎(歯肉)の境目を丁寧に磨く
2.日常生活の問題とはならなくとも小さな異変を見逃さない(早期に受診)
3.定期歯科検診やメンテナンス(クリーニング)をお受けになられ、ご自身で気づく前に歯周病の予兆を捉え、早期に進行を止める
4.上記予防を実践する