銀歯にする、しない、そのリスクとメリット

銀歯
欧米ではあまり目にしない日本特有の銀歯、日本では保険治療で当たり前のように作られていますが、その本当のリスクとメリットをご存じでない方が多いように感じます。
銀歯は金、銀、銅、パラジウム等の合金で作る詰め物や被せ物を指しています。銀歯の見た目が嫌で白いセラミックに入れ替えたいご希望をよく耳にしますが、私たち歯科医がセラミックをお勧めする理由は別にあります

銀歯のメリット

・保険適用になるためご負担が少ない
・奥歯の治療では保険のプラスチックに比べて丈夫である
・材質が硬いためプラスチックのようにすり減らない

銀歯のリスク

・保険の枠内に収めるため治療精度が低く、虫歯や歯周病に弱い傾向にある
・材質的に硬過ぎて他の天然歯の変化とバランスせず、長期的にかみ合わせが狂うリスクがある
・パラジウムを含むため金属アレルギーリスクがある
・銀色の金属色が目立つ(天然の歯の色調と合わない)

銀歯の評価

このような銀歯の特徴をみてみると、歯科医側からはリスクの方が大きいと思えるのです。歯は二度と手に入らないものです。その寿命を犠牲にしてメリットを取るか否かはご本人のお考えだと思いますが、将来入れ歯になった時に後悔しないでいられるでしょうか。
紺屋の白袴ではないですが虫歯になった歯科医が自分の歯を銀歯で治したケースを私は知りません。
日頃の治療で銀歯の行く末を嫌というほど見ている立場の人間の選択です。

銀歯のリスクについてもっと詳しくみていきましょう。

リスク1:虫歯や歯周病に弱い

虫歯を削り取った跡は歯に穴があきます。そのまま放置すれば穴に食べかすが入り虫歯菌の格好の住処になる上に穴の中には弱い歯質が露出しているため簡単に虫歯が再発してしまいます。
それを防止するために穴に人工的な詰め物を入れる、その一種が銀歯の詰め物です。
大きな虫歯や神経を取った歯の場合は歯に被せものを被せて歯を守りますが、その際に銀歯の被せ物を用いることもあります。

この銀歯は歯型を取ってその中に石膏を注入して模型を作り、技工士さんが模型上で銀歯を作ります。この作業過程で寸法精度が悪いと実際の歯とできあがった銀歯の適合が劣り、歯と銀歯の境目に僅かな隙間が生まれます。この隙間は歯ブラシが届きにくく虫歯菌が住み着くと虫歯が発生します。
これが銀歯で治療した後にできる虫歯のメカニズムです。被せ物でその隙間が歯茎近くにあると、隙間に歯周病菌が住み着きやすく歯周病になるリスクが高くなります。

銀歯取れる前銀歯取れた時点
この隙間を可能な限り少なくすることが歯を虫歯や歯周病から守る方法ですが、欧米と比較して異常に低い保険の決まった金額の範囲内に収めるため、歯科医も技工士も省力化せざるを得ないのが実情です。安く済ませることの負の部分です。

実際に銀歯が引き起こした虫歯の症例をご興味がおありの方はご覧ください。
銀歯の下が虫歯になった症例1
銀歯の下が虫歯になった症例2

リスク2:他の天然歯の変化とのアンバランス

万物に変化はつきものです。歯も同様で経年的に摩耗し変化していきます。この現象自体は致し方ないことですが、天然の歯が多少摩耗するのに対して銀歯は歯よりかなり硬い材質のためあまり摩耗しない現象が知らず知らずのうちにお口の中で起こります。
すなわち全体の歯のかみ合わせバランスが崩れる(かみ合わせが狂う)ことになります。

毎日の緩慢な変化であるためこのバランスの崩れを人は感知することができません。これが長期化すると特定の歯(多くは銀歯が入った歯)に強い力がかかり、虫歯発生、銀歯が取れる、歯がしみる、歯が痛むなどの症状を次第に感じることがあります。
銀歯で歯が割れた
また神経がない歯に銀歯を被せた場合、他の歯がすり減って低くなっている中で銀歯の歯は減らないため相対的に高い(先に当たる)歯になります。こうして神経がなくなりもろくなった歯に強い力がかかり、最悪の場合歯が割れる・折れることがあり抜歯せざるを得ない症例を多数経験しています。
過度の力を歯に加える方、例えば食いしばりや歯ぎしりをする方はこの銀歯の天然の歯の変化とのアンバランス問題が大きくなります。

リスク3:金属アレルギーとメタルタトゥー

金属は汗など水分に触れると金属が溶けだします。溶けだしたイオン化した金属が体のタンパク質と結びつき「かゆみ」や「かぶれ」などの症状を起こすことを金属アレルギーといいます。人によって金属アレルギーを起こす人、起こす金属は異なります。唾液という水分が豊富な口の中や、汗をよくかく場所が起こりやすいといわれています。水分が豊富な風呂場に置いたヘヤピンが錆びやすいことに似ていいます。
金属アレルギーを起こしやすい金属の代表は歯科治療で多用されているニッケル、コバルト、パラジウム、銅、他にはクロム、すず、水銀などです。高価なアクセサリーでは「かゆみ」や「かぶれ」は起こさないが安いアクセサリーでは起こしやすい人は要注意です。

アマルガム
以前歯科治療で使われていたアマルガム(写真)には水銀が、現在の銀歯にはパラジウムと銅が含まれているため金属アレルギーを起こしやすいといわれています。
特に見た目は銀歯に似ている水銀を含むアマルガムは北欧では随分前に脳への障害が懸念されるため歯科使用が禁止されています。アマルガムを削って除去する際に歯科医へのアマルガム粉塵汚染に注意喚起されているくらいですから、それがご本人の口の中に常に存在すること自体が問題です。アマルガムは欠けやすいため、破片を飲み込む可能性もあります。黒みがかった古い銀歯には注意が必要です。

またメタルタトゥー(金属イオンによる入れ墨)と呼ばれる酸化した金属イオンが歯質や歯茎に沈着して黒ずんでしまう現象が起こることがあります。酸化しやすい銀を多く含んだ銀歯や土台によく見られます。
金属アレルギーを避けるには、原因となっている金属を使わない治療やセラミックなど金属以外の材料を使った治療がお勧めです。

リスク4:銀色の金属色が目立つ

天然の歯の色調と明らかに異なる金属色であるため、人目につく場所の歯であれば目立ちます。今は自然観を重視する時代ですから、銀歯の人工的で無機質の色合いを嫌う人が増えてきています。

治療前
天然の歯と調和して目立たない自然な色合いを出すにはセラミックが最適です。
この他には近年開発されたジルコニアがあります。歯の色調とは異なる不透明感と「てかり」がある若干不自然な色合いですが、あまり目立たない奥歯や費用を抑えながらも金属色を避ける場合によく使われます。
この他には色調の面ではプラスチックがありますが、前歯ならともかく奥歯で使用すると摩耗しやすく耐久性がないため再治療を余儀なくされるケースが多いのが実情です。保険適用になりご負担が少なくなる半面、何度も同じ歯を治療するとその都度歯を削ることになるため、奥歯ではあまりお勧めできない材質です。経年的な変色の問題もあります。

セラミックとジルコニアの比較

セラミック
7年後

ジルコニアジルコニア

見た目が自然で美しい

汚れが付きにくい

虫歯再発リスクが小さい

△~〇 注1

変色しない

金属アレルギーを起こさない

メタルタトゥーを起こさない

費用

高価

比較的安価~中程度 注2

注1、注2:当院では2種類の作り方が違うジルコニアがあります。
比較的安価なジルコニアは通常のジルコニアに比べて治療精度が劣るため虫歯・歯周病リスクが若干高くなります。

詰め物・被せ物の種類と詳細

最後に

一般的には銀歯の見た目が悪いことだけがクローズアップされています。
私達歯科医はそれは特徴のほんの一部でしかなく、材質の選択は歯の病気や寿命に関わる事柄だと捉えています。
日々の臨床で銀歯の行く末を沢山見てきているからです。
このページを書いた動機は表面的な見た目だけでなく、陰に潜む本当の銀歯の姿を知った上で選択していただきたいとの思いからです。

ここでお話ししたことは万人に起こることではなくリスクです。
しかし日常の臨床で非常に多く目にする光景でもあります。
「君子危うき近寄らず」の考え方からすれば避けられるのであれば避けた方が得策だと私は考えています。

銀歯よりはかなりいいと考えていますが、私はセラミックがいいとは思っていません。
ジルコニアもいいとは思っていません。天然の歯が一番だと思っています。
ですから万が一歯が病気になったならば早期に発見して最小限の治療で納めるために定期的な歯科検診にお越しください。
そして病気にならないためにメンテナンス(クリーニング)にお越しください。
ご一緒に歯と歯茎の健康を守っていきましょう。

定期検診とメンテナンス(クリーニング)

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